ここは動物達が人間の体でくらす不思議な世界。
「・・・・はぁ・・・・見てみたいなぁ。 ライオンさん。」
梅の木の上でウグイスが溜息を付いた。 その声は、澄んだ響きで耳にしたものを虜にする。
「まだ言ってたの、ウグイス?」
丁度やって来た兄の孔雀が、その煌びやかな羽をたたみウグイスの隣に腰掛けた。
「兄さん・・・だって、百獣の王様だよ! 一度で良いから見てみたいよぉ!」
ウグイスは、オリーブ色がかった黄緑の羽をパタパタと羽ばたかせた。 少し浮き上がり浮遊する事しか出来ない彼の羽は、とても小さくてカワイイ。
「・・・・はぁ・・・まったく、鷹の奴・・・余計なもの買ってきやがって・・・。」
綺麗な顔に似合わない言葉遣いで、悪態をつく孔雀。
弟であるウグイスが、こんな事を言い出したのは他でもない自分の恋人、鷹がウグイスへと買ってきた絵本が発端だ。
「いい、ウグイス。 ライオンってのは、海を越えた遠いサバンナに居るの。 だから絶対に会えない。」
鷹や鷲のような翼を持っているか、渡り鳥のような体力があれば可能だけど、ウグイスのような華奢で弱い小鳥では、直ぐに力尽きて海に落下し死んでしまう。
「でも・・・。」
「でもじゃないの! 馬鹿なこと考えてないで、祭典で披露する歌の練習でもしてきなさい。」
孔雀は、ウグイスの背中をトンと叩いた。
ウグイスは、その類稀なる美声を生かし歌い手として動物達の人気を集めている。
「・・・・はぁい・・・・行って来ます。」
ウグイスは、渋々重い腰を上げた。 小さな羽根を広げて、パタパタと梅の枝から羽ばたいた。
「行ってらっしゃい。 キツネや蛇に気をつけるんだよ。」
孔雀は、かわいい弟の背中を見送った。
「あれ? ウグイス何処行くの??」
「あっ、スズメ。」
見知った者の声がして、嬉しそうに振り返ると親友のスズメが居た。
「さっき遊びに行ったら、孔雀さんが歌の練習に行ったって・・・。」
だから仕方なく遊び相手を探していたスズメだったが、途中でウグイスを見かけて慌てて声をかけた。
「うん。 何時もの湖で練習しようと思ったら、フラミンゴさんが踊りの練習してて出来なかったの。」
邪魔をしては悪いからと、フラミンゴの踊りを少し見物した後、湖を後にした。
「そうなんた、それで何処行こうとしてたの?」
スズメは、大した用事でなければ、ツバメも誘って一緒に遊ぼうと聞いた。
「秘密! これから大事な用があるから、バイバイね。」
スズメと遊ぶのも楽しいけれど、今のウグイスには、もっと大事なことがあった。
これから彼は海に向かう。
ライオンを見に行くのだ。
孔雀はあんな風に行っていたけれど、僕も17歳。 この森を飛びまわれるようになったんだから、海なんてへっちゃらだよ。
「そうなんだ、残念。 じゃあまた今度。」
まさか親友が無謀な事をしようとしているとは思わず、スズメはあっさりと去っていった。
「じゃあね。」
ウグイスも再び海へと向けて羽を広げた。
ウグイスは、小さなガケに立ち海を見つめていた。 想像していたよりも、サバンナは遠そうだった。
「・・・・・・。」
怖気づく心が、飛び立つのを躊躇わせている。
羽を広げてはたたんで・・・広げては・・・・。
「・・・・・・・行こう!!」
心を決めて、大海原へと飛び出した。
「・・・・きっと・・・もうちょっと・・・・。」
孔雀の推測通り、ウグイスは疲れきっていた。 もう戻る体力も失って、気力だけで飛び続けていた。
あと少し・・・・あと少しでサバンナが見えるはず・・・・。
ここで羽ばたく事をやめてしまったら、泳げない自分は溺れてしまう。
それに、さっきから自分の下を追うように泳いでいる者がいる。 目が合ったときに、鋭い牙のある口を広げて「喰ってやるから早く下りて来いよ。」と言われた。
「・・・っひく・・・・兄さん・・・・・・。」
このままだと、食べられちゃう。
あぁ・・・僕が兄さんのいう事をちゃんと聞いていたら・・・。 頭に綺麗で優しい孔雀の姿が浮かぶ。
父と母を狼に食べられてしまった僕を、大事に育ててくれた孔雀。
まだ恩返しだってしていないのに、こんなところで死んじゃうなんて、嫌だよ・・・。
「・・・っく・・・。」
苦しさと恐怖で涙を流しながら、疲れ果てた羽を無理矢理動かしていた。
しかし、体力の限界を向かえ・・・羽が動きを止めた。
ウグイスの体がサメの待つ海に、フラフラと舞い降りていく。
サメの腕がウグイスの体を捕らえる。 グッと引き寄せ、水面に寄せた。
「いやぁあ!!!」
水に濡れたことで気を取り戻したウグイスは、バシャバシャと必死に暴れた。
「馬鹿が・・・もう逃がさねぇよ。」
幾ら暴れても、サメとの対格差は歴然。 それに此処は海。 小鳥のウグイスがサメに適うものなど何も無い。
サメがウグイスの体を引き寄せた。 少し力を入れただけでも、ウグイスは痛みに悲鳴を上げた。
ウグイスの美しい声と、透き通るような綺麗な体にサメの欲望が高まった。 もっと怖がらせてやろうと、ウグイスの体を抱きこんだまま海の中へと沈む。
呼吸の出来なくなったウグイスがサメの体に爪を立てて暴れた。
苦しそうなウグイスの顔に満足し、浮上した。
「・・・・ッケホ・・・ゴホ・・・っあ・・・はぁはぁ・・。」
水を吐き、空気を取り戻したウグイスは苦しそうに咳き込んだあと、抵抗する力を失い、ダラリとサメに凭れ掛かった。
「っふ・・・最初から、こうして大人しくしていれば良かったんだ。」
サメの荒い息が、ウグイスの頬に掛かる。 恐怖と疲れで、ウグイスの体は小刻みに震えていた。
「まさか、こんなに良いものが降って来るとは思わなかったぜ・・・。」
サメがウグイスのオリーブ色の髪を掴んだ。 涙を流し、怯えるその姿は得も言わぬ快感を引き起こす。
喰らい付くように、ウグイスの唇を犯した。 キスなどした事の無いウグイスは、乱暴に掻きまわすサメの舌から逃げようとしたが叶わない。 流れ込んできたサメの唾液を、どうする事も出来ず嚥下する。
息が出来ずにもがき、サメの胸を叩くと唇が離れていった。
漆黒のサメの目に見つめられて、恐怖が増す。
このまま僕は食べられてしまうの・・・・。
嫌! 帰りたい、孔雀のところに戻りたい!!
羽を広げ羽ばたいて逃げようと思ったけれど、水を含んで重くなった羽は思うように開かない。
「逃げようなんて無駄だ。」
「・・・・っやああ!! 痛い! やめっ・・・やめて! ああああ!!」
小さな羽根をグッと握られ、鈍い音がした。 鋭い痛みが駆け抜ける。
ウグイスの華奢な羽は、残酷にも折られてしまった。
「・・・ぁう・・・ぁ・・・。」
歯がかみ合わない。
視点が定まらない。
痛いよぉ・・・怖いよ・・・。
「殺されたくなかったら、俺を楽しませろよ小鳥。」
「・・・っ!?」
サメはニヤリと笑い、ウグイスの胸の飾りに爪を立てた。 ピリっとした痛みと同時に、理解できない感覚が沸いてきた。
ウグイスの腰には、何か熱を持ったものが宛がわれている。
何・・・僕・・・どうなっちゃうの・・・。
こういう経験の無いウグイスは、あがらう事も出来ず、サメに体を開かれていった。
ことが済み、美しい声も掠れ・・・叫ぶことも出来なくなった。
ウグイスは、岩場に横たえられ虚ろな表情で夜空を見上げていた。 サメは、ウグイスを散々犯した後、ウグイスの食べられそうなものを探しに、海中へと消えていった。
「・・・・・・・。」
兄さんと呟いたはずなのに、声は出なかった。
羽を折られたウグイスは、海の真ん中にあるこの岩場でサメに飼われるしかなかった。
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