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 (痴漢/15禁)
受難




今日は、運動会の代休で職場である幼稚園はお休みの日。

疲れているけれど、少し離れた所で開催される、絵本の読み聞かせの講習会へ向うために、朝から電車に乗ろうとしている。


電車には・・・あんまり良い思いではないけど・・・・・スクーターで行ける距離じゃないし、そもそも男が痴漢に遭うなんて、一生に一度の事だと思う。


それにしても・・・・・本当に凄い人だと思う。
通勤時間ということもあり、12番線まである駅のホームには人が溢れかえっている。

人々は、生気の無い顔で俯き電車を待っていた。





人々を眺めながら電車を待っていると、アナウンスが流れた。


すでに沢山の人を乗せている電車がやって来た。


一気に人がホームに降り立つ。
そして直ぐに、今度はホームの人が乗り込む。

列の真ん中ぐらいに立っていた僕は、ドドーっと押し込まれ、反対側のドアにへばり付いた。



「・・・・・ぅぅ・・。」

駅員さんの怒号と共に、ギュウギュウと圧縮が強まる。

苦しい・・・・・。

人と人の間に隙間はなく、全員が密着している。



電車はやっと走り出した・・・・。





恐らく、この苦しさは5駅ぐらい続くだろう・・・・・。





半泣きになりながら、流れ行く外の様子を見ている。



すると・・・・お尻に何かが・・・・当たっている・・・。

駄目駄目、そんな過敏になったら駄目だ。

被害妄想もいい所だよね!


きっと、この状況で仕方なく当たっているものだよね!



・・・・・・・・きっと・・・・・たぶん・・・・・・気のせい・・・・・じゃない。


だって、明らかに誰かの手だよ!!

しかも、僕のお尻の形に合わせて動いてるもん!


「・・・・・・・・。」


僕は外を見るのを止めて、ドアの手すりを握り締めながら俯いた。
顔は真っ赤になっているだろう。




最初は、全体を滑らすように触っていたけれど・・・・だんだん、やんわりと揉むようになってきた・・・・・。


「・・・・・っ・・・・。」


恥ずかしさと、悔しさで泣きそうになる・・・。
一体、この手の持ち主は・・・・誰なのだろう。
俯いた僕の目には、男物の靴や、スーツのズボンしか目に入らない。

まさか・・・・まさか・・・・ また男じゃないよね・・・・。



せめて女性なら、我慢できるけど・・・・・。




勇気を出して振り返ろうとしたら、お尻にあった手が・・・・・足の間を割るように動き出した。

「・・・・・・っひ・・・。」

そして・・・・それだけじゃなかった・・・・・。


手は、一旦お尻を離れたと思ったら・・・・・・前へ・・・・。


「・・・・・ゃ!」


驚き、いよいよ危機感を募らせた。
相手は僕の直ぐ後ろに立ち、後ろから抱き込むような形になっている。

間違いなく、男!!

恐怖を感じ、僕のソコに回った手を捕らえようとするが・・・・電車の揺れに合わせ、ドアに押し付けられ動けなくなってしまった。


嘘!?  こんなの冗談だよね!



腰に・・・・腰に相手の熱が当たっている・・・。


気持ち悪い・・・・。



頭もくらくらして、今の僕は最悪な顔色をしていると思う。





手は、大胆にも僕のジーパンのチャックを下ろそうとした。


「・・・・ぁ!!」


止めて!と叫びたい・・・・だけど、男の僕が痴漢に遭っているなんて、誰が信じてくれるだろうか・・・。

僕は、仕方なく身体を少しずらしたりしながら、抵抗を試みる。



まだ、この満員状態が終わるまで、最低3駅ある・・・。





お願い・・・やめてよ・・・・。



願いはむなしく、手はジーパンの中に進入し・・・・・下着の上から触れてくる。


やだ! 誰か助けてよ!!


以前、痴漢に遭った時は高校生に助けられたが・・・・そう上手くは行かないだろう・・・・。


でも、早くこの状況をどうにかしたくて・・・・僕の手は、何かを掴んだ。




硬く瞑った、涙の眼を開けた。

どうやら、僕は隣の人の腕を掴んだみたい。



隣の人と目が合う。

涙を浮かべながら、目で助けを求めた。


その人は、普段だったら絶対に係わり合いの無い人種だった。
耳はピアスで一杯で、身体は筋肉質、目にはブルーのカラコン、潰されないようにギターを抱え込んでいる男性だった。

テレビや雑誌に出ていても可笑しくない、そんな男性だった。


彼は、僕の顔をみて 何事かと息を呑んだ後、僕の後ろの男を見た。
彼の表情が険しくなる。

ゴツゴツした指輪を嵌めた彼の手が、男の手を捉え握り締めると。
耳元で後ろの男が小さく呻いた。


そして、電車が乗り降りの少ない駅に着いた時。


「スイマセン、降ります!」

彼が僕の腕を引き、人を掻き分けて無理やり電車から降りた。





肺に新鮮な空気が入る。

ホームに降り立った後も、彼は俺の手を引き続け、駅のトイレに入った。


「・・・・・・あの・・・。」

彼の後姿に話しかける。

すると彼が振り向いた。
身長差がかなり有るようで、威圧感すら感じた。

「馬鹿かあんた!」

「・・・・・え?」

お礼を述べようとしたところで、いきなり怒鳴り散らされ・・・・ビクッとなった。

「あんたみたいなのが、あんな所に居たら犯して下さい、って言ってる様なものだろ! それとも、あんたそういう趣味?」

「ち、違います!!」

「・・・・・だったら、もっと考えて行動するんだな!  じゃあな、俺は急ぐんだ。」


彼は、それだけ言い捨てると、さっさと立ち去った。
僕は、呆然と立ち尽くした・・・・。

なんで・・・・僕みたいなのが満員電車駄目なんだろう・・・??


頭を悩ませて、俯くと・・・・・彼が落として行ったと思われる紙切れを見つけた。


開いてみると・・・・ライブのポスターだった。


「・・・・やっぱり、ミュージシャンのひとだったんだ・・・。」


怖いイメージあったけど、いい人も居るんだなぁ と思った。








それから、しばらくして・・・・・僕はその彼を、テレビのブラウン管の中に見つけることができた・・・・。

大きなライブ会場で歌う彼は、まさしくあの時の彼で・・・・・世間は狭いなぁ と感じたのだった。








彼は、雑誌のインタビューで「痴漢に遭っている子を助け、その人に一目ぼれをした。  その人を探している。」 とコメントしている。


作者のホームページへ「サイトのヒット小説の改訂版です。」
...2005/4/24(日) [No.193]
釜五郎
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