「あぁ~~……、空が青いよ……」
ガラにもない事言っちゃった自分が可笑しくて、一人でニヤニヤした。 そんな自分も阿呆らしくて溜息がもれた。
今日、告白して振られた。振った女子いわく『透って、男に思えないわ』らしい 。
なんだそれ。
俺は…そりゃあ、母さん似で女顔で背は小さいし、細いし筋肉は付きにくいし、 目は大きいですが?ちゃんとした男。 可愛いとか言われるけど、そんなん嬉しくないし。
それに、好きだった子に言われるって、また違う。振られた事より、言われた事 の方が痛かった。
「地球は寛大だな……」
俺の訳わからない悲しみと愚痴をこの、ジリジリとした熱で癒してくれてんだも んな。でも、やりすぎだぜ?暑い。
「夏は屋上来るもんじゃねーなー」
ガチャッ
なんだ、人が感傷に浸っている時に俺のテリトリーに入ってくる奴は!微妙に泣 いてんだゾ。
「……あっ……」
下へと続くドアを半ば涙目で睨んで、目を丸くした。
「安西……道隆……先輩」
抱かれたい男人気No.1、その人だった。 「はて、今は授業中のはず。君、行かなくて良いのかな~?」 おどけた口調で声かけられて、急いで涙を拭いた。かっ格好悪い……。そして、 僕が授業中ならアナタも授業中です、先輩。
振り向いた瞬間目が合った
瞬間的に、
音が消えた
「えっ?」 泣いてるのに驚いた様子だったが、俺は俺で涙を止めるのに必死だった。不思議 な気分だったし、涙の理由が振られたカラ。なんて、抱かれたい男No.1にしたら 、ありえね~って話しだろ?
「『透って、男に思えないわ』が、キいた?」
……………はっ?
「ごめんヨ。さっき聞いちゃったんだよね」
最悪だ。
「うん、でも、男とか女とか関係ないヨ。俺、君に惚れたし」
慰めかぁ……そうかぁ~。俺に惚れてるかぁ………。
「惚れてる is like or love?」 日米友好的言葉を吐いた。 「It's love!」 流暢な英語が良く頭に入ってこなくて混乱しているうちに、No.1のマスクが目の 前にいた。 「へっ?」
俺の口はNo.1の唇に塞がれていて、良く分からなかったけど、嫌じゃなかった。 それに、抵抗しようとしても手を掴まれているし力が入らなかった。 「んっ……あっ……」
なんか自分の声じゃないみてー……。
「いただき。これから君の事落とすので、覚悟ヨロシク!」
呆然とする俺を残し去って行ったNo.1の背中。
ドアが閉まったと同時に俺は後ろに倒れた。
「もう、落ちてます。No.1……」
西脇 透。高校1年の夏。振られてキスされて恋に落ちました。 「俺ねー」 「うん」 「昨日ねー」 「うん」 日差し厳し、午後の授業。隣は必死こいて数学を解く田中。ポッキーを食べる俺 。 「南城の子にねー」 「……南城高。早苗ちゃん?」 「うん」 田中が「うん」以外の事を言っ事から、聞いてる事は分かったけど、別に聞いて る聞いてないは良かった。言いたい事があっただけ。 「振られた」 「オメデトウ」 「アリガトウ」 ポッキーを噛むとポキッと良い音がして、先生が俺に近寄ってくる。ポッキーっ て本当にポキッて音がする。これは当たり前の事実だけど、たぶん今から俺は、 パキッって音がする。 「に~し~わ~き。恋ばなは良いから、問題を解け」「はい。先生」 先生の口にポッキーを無理矢理入れて、あと2本しか入ってない袋も押し付ける 。 「ワイロあげたので、今日、出席扱いにして下さい」「は?」 ごめんヨ。
「でね田中、惚れたんだ」 そのまま教室を優雅に出て授業中の学校、静まり返った階段を目指す。
友達に恋ばなをしたのも初めて、授業飛び出したのも初めて、教師にワイロ渡し たのも初めて。
「今日は、パッキーデーだなぁ」
静かに響く足音は、確かに俺のモノで、その事実が俺の気持ちを震わせていた。 流石に、惚れました宣言しちゃったよ…。でも、今更、引き返せないし。
ガラッ。
3-5。と書かれたプレートのドアを開けた。授業中なので、ほぼ全員の先輩に 見られた。先生は、迷惑そうだ。
でも
「安西先輩」 安西先輩は教室ど真ん中直球で、なんだか楽しそうだった。笑顔につられて、安 西先輩の前まで踊り出た。教室中は好奇の目。
あのですね
「安西先輩、俺、落ちました」
「うん。知ってた」 「……No.1だから?」 ちょっと疑う。 「違うよ。屋上で目が訴えてた」 流石No.1だ。そんな恥ずかしい過去でさえも見破っているとは。
「ひゅーひゅー!」 「授業中に見せ付けんなよぉ!」 取り敢えず現実に引き戻されて、人生で一番偉大な事をした気がする。
「透は俺のモンだから、有効期限無期限で」 高らかに言った先輩は、立つとやっぱり背が高くて、かっこよかった。 「ではでは、誓いを」
ボケーっとしたままだった俺の唇に先輩のが重なって。また、俺の音が消えた。 自然と目を閉じて、先輩だけを感じてた。
好き
って、唐突に思った。
それは一瞬の出来事で、周りからの歓声で我に返った。
心地良かった居場所。
無機質で 心が震えた
「いくら地球が寛大でも、今日がパッキーデーでも、しちゃいけない事がありま す」 たぶん先輩は、俺が言った事はわけ分からないだろうけど、そういう事だ。つま り、 「教室の中心でキスをすること!」 「そ~だよな。しちゃいけない事ってあるよな。いくら先生が寛大でも、あるよ な」 皮肉にも俺に答えたのは、授業を中断させられていた先生。あ……ワイロ。…… 無理か。 「逃げようか」
何だか嬉しくて、夢中で手を取った
先輩は、黒板の英語を解いて、チョークを窓から投げたんだ。チョークは、スト レートで真っ直ぐ木の幹の穴に入った。それから、笑って。 「直球ストライク。俺は、入るって信じてたよ」
授業をサボって屋上でキスをした。言葉もないし、ポッキーもないが、相変わら ず地球は寛大だった。
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