半年前、大阪支社から転勤してきた南原のアパートが火事で全焼し、たまたま営業でコンビを組んでいたという理由だけで部屋に押しかけられてから、ガールフレンドを部屋に呼ぶことが出来ない。 仕方なくホテルで外泊して部屋に戻ったとき、すっかり南原に部屋のレイアウトを変えられて以来、外泊どころかデートで数時間部屋を空けるのも心配でままならない。 そういう事情で一人寝の続いている里平浩平のフラストレーションは日々、募っていた。 しかも里平の抱える問題は下半身の欲求不満などどいうなまやさしいものではなく、子供の頃から続いている悪夢のための不眠だった。 里平は一人で眠ると必ず怖い夢を見て夜中に何度も目を覚ましてしまう。 精神科にも通ったが、原因不明と医者にも匙を投げられた。
「なんでやねん。なんでワシが、おまえと同じ布団で寝なあかんのや」 背に腹は変えられないと、南原に一緒に寝てくれと頼んだのは、南原が部屋に来て一週間が過ぎた頃だった。 「だから言ってるでしょう、僕、一人で寝られないんです。南原先輩だってソファで寝るよりベッドで寝た方がぐっすり眠れますよ」 「そやかて、わし、ホモやないしなあ。そんな急に抱いてくれ、言われても困るがな」 「抱いてくれとは言ってませんよ。ただ一緒のベッドで寝てくれるだけで結構ですから」 「だから、なんでやの、って」 「……怖い、夢を見るんです」 「ぶっはははは。怖い夢やて。いくつや、自分」
遠慮なく笑い飛ばされて、里平のプライドは深く傷ついた。 しかし、今は安眠を手に入れるため、とにかくこの男を丸め込むしかないのだ。 「仕方ない。これだけは言いたくなかったんですが。いいですか、南原先輩、絶対誰にも言わないでくださいね?」 真剣な表情で詰め寄ると、興味を持ったのか南原の目が輝いた。 「ワシ、口は堅いで」 里平は限りなく疑い深い眼差しで南原を一瞥し、それでも眉間に皺を寄せながら口を開いた。 「あれは今から二年前のことです。その頃僕には付き合ってる女性がいました。けれど、もろもろの事情があって、別れ話をしたんです。彼女は言いました。別れる前にもう一度だけ抱いて、と」 ゴクン、と南原が唾を飲み込んだ。 「なんや、エロ話かいな」
南原の言葉を軽く無視して、里平はますます深刻な表情になる。どうやら官能的な話ではないらしい。 「僕は、彼女を抱きました。そして次の朝です。目が覚めると、身体が異様にベタベタ濡れてるんですよ。それに、錆びたような鉄の匂いが鼻につきました。寝惚けた頭で、変だなあと思いながら隣に寝ている彼女に手を伸ばしたんです。『なあ、起きろよ、なあ』。起きれるはずがありません。彼女は、僕と同じベッドの上で、手首を切って血塗れで死んでいたんです…」 「ぎゃあああああああ!」 部屋中に、南原の悲鳴が轟いた。
「ほ、ホンマの話か?嘘だろー。いややわあ、冗談キツイっわ、里平ちゃん」 「それ以来、一人で寝ると夜中に必ず目が覚めるんですよ。僕の横で恨めしい表情で、死んだ彼女が寝てるんです。でも考えてみれば、自業自得というやつですよね。彼女を傷つけて死なせてしまったのは僕のせいですから。一人で寝ます。すみませんでした」 立ち上がった里平の足に、南原はしがみついた。 「もうなんやの。水臭い。ワシらコンビやん、遠慮しーなって。一緒に寝たるがな。お安いご用や。ね?」
そんな経緯で、二人は同衾することになった。 枕を抱えて、おずおずと里平の寝室に入ってきた南原は、珍しそうに部屋の中を見回す。 「なんや、落ちつかん部屋やなあ」 「そうですか?」 「だいたい、なんなの、この馬鹿デカいベッド。うわ、なんかやらしいわ」 「いいからもう寝ましょう」 今夜は久しぶりに熟睡出来ると思うと、里平の表情には自然に笑みが浮ぶ。 その魅惑的な笑顔が南原にあらぬ妄想を植え付けたことに里平は気づきもしなかった。 「なんか、初夜みたいやな」 「なんですか、初夜って。ははは、面白いなあ、南原先輩は」 「そ、そうか?」 意味なく二人で笑いあいながら、枕を並べて一つの布団を被る。 「おやみすなさい」 「お、おやすみ」
里平がリモコンで部屋の照明を落とし、寝室は静寂と闇に支配された。1分後。 「どこ触ってんですか!」 わざわざ身体を起して1分前に落としたばかりの電気をつけて、里平が怒鳴った。 「触ってへんよ。言いがかりや。感じ悪いなあ」 「触ったでしょう、今、その手で僕の腰を!ここらへんを!」 「オ、オレが?里平ちゃんの腰を?オレは知らんがな。ちょっと待ってえな、右手に聞いてみるわ。『おまえ、里平の腰触ったん?』触ってへん、言うとるよ?」 「……左手に聞いてみてください」 「『おまえ触ったん?』あ、触ったゆーとるわ。しょうもないなあ」 じーと、白い目で南原を見て里平は「もういいですから、寝ましょう」と言い、再び明かりを消した。
その、1分後。 「南原さん!」 「なんやの!さっきから。もう五月蝿くて眠れへんなあ」 「触ったでしょう!しかも股間をっ!や・め・てください」 「言いがかりやな」 「右手ですよ、この手です!はっきり、この手で握ったでしょう!むぎゅって」 里平は南原の右手を布団から引っ張り出して、手首を握りながら怒鳴った。 「この手が、おまえの股間を触った、と?」 「そうですよ。わっ、匂いを嗅ぐな!匂いを!!」 南原の両腕を押さえて、片膝を立てながら里平は目を吊り上げる。 なまじ美形なだけに本気で怒ったときの里平には結構な迫力があった。 「…そやけど、自分も悪いんやで?そんな可愛い顔で、ワシをベッドに誘って。そんで、触るなア、言われても困るがな」 「ベッドに誘うって…」 意味のニュアンスは違うが、事実はその通りであるため反論出来ない。 里平は怒りをおさめて、項垂れた。
「わかった。もう触らへんから。ちょっと…チューさせて。チュー」 「嫌です」 「嫌や?なんや、ノリ悪いなあ。もうええわ。チューは、もう、ええ。なら、舌、吸わせて」 「同じでしょう」 「え?チューと舌を吸うのは同じなん?自分、同じ思っとったん?あかん。あかんなあ。そんな貧しい性知識で、営業が務まるかい!」 里平はムッとした。 この年中女っケのないやもめ男に性知識が貧しいと言われることほどプライドの傷つくことはない。 「失礼ですね。僕はこう見えても知識とテクニックには自信があるんです」 だが実は大きさと持久力には自信はない。そこは黙っていた。 「ホンマに?なんか、あやしいなあ、自分。毎晩自分で慰めてるちゃうのぉ」 「は?僕が、ですか?失礼なことを言わないでください。もう5年ほどオナニーはしてません。なにしろベッドをともにする相手に不自由してませんので」 「口ではなんとでも言えるがな、ワシかてオナニーなんかせえへんで?」 南原の細い目が弓のように弧を描いている。 口元を手で押さえて笑いを堪えているように。
「いいでしょう。そこまで言うなら、しましょうか、キス。知りませんよ、溺れても」 里平がそう言い終わるか終らないうちに、南原は里平の唇に唇を押しつけた。 「うっ…う」 顔を両手で挟まれて固定され、力任せに唇を塞がれて息をするのもままならない。 「なっ…僕を殺す気ですかっ!」 やっと身体を引き離した里平は息も切れ切れにそう言って南原を睨んだ。 「久しぶりだったんで、つい」 「真面目にやってくださいよ」 呆れたように言いながらも、まだ付き合う気はあるらしい。 「よ、よーし、いくでえ。覚悟はええか、自分」 「なんですか覚悟って。まあいいや。眠いんでさっさとやっちゃいましょう、さっさと」 里平は、目を閉じた。心持ち、唇を軽く開いて突き出している。 その表情のエロさに南原は生唾を飲み込んだ。 久しぶりにご馳走を目の前にしたときと同じ心境で、里平の肩に手をかける。 今度はゆっくりと、唇を重ねた。 重なった唇はいつまでたってもただ重なっているだけで、今時中学生でもしないようなキスに里平は呆れた。 薄目を開けてみると、南原はうっとりと唇を突き出している。 つい悪戯心で南原の下唇を舐めると、ビクッと、南原が驚いたように反応する。 中年男のウブな反応がおかしくて、今度は舌を入れてみた。 絡ませると南原の舌はおどおどと逃げるように縮まる。 乙女のような反応が面白くなり里平はどんどん調子に乗ってしまった。 女の子にも滅多にしない濃厚なキスに、里平自身が夢中になってしまった。
「…あ、はぁーん」 夢中になってしまったせいで、里平の唾液の垂れた半開きの口からエッチな声が漏れる。 自分の声で里平はやっと我に返った。少々、やり過ぎたかな、と反省してみる。 身を離すと、南原は犯された処女のように目を潤ませて、ワナワナと震えていた。 しかし、ランニングにトランクス姿のオッサンが恥らう様は、言っちゃ悪いが、不気味だった。
「あの、南原先輩、大丈夫ですか?ちょっと刺激強すぎましたか?」 「大丈夫ですかじゃあらへんがな~。な、なんやの、自分」 「つい、そのムキになっちゃって。すいません」 「すみませんじゃあらへんで、責任とってもらわな、困るわ~」 「は?せ、責任?」 「責任や」 嫁にでもしろ、と? 里平が返事に窮していると、南原がにじり寄ってくる。 里平は、本能的な恐怖を感じて、後ずさった。 「せ、先輩、南原先輩…?」 南原は、里平の右手首を掴み、こともあろうか里平の右手を自分の股間に導いた。 「ぎゃあああああ!やめてくださいっ!」 「やめてください言うても、里平ちゃんのせいで、こうなったんやで?」 南原のそこは、おそろしいことに、固くそそり立っていた。 「うっ…ぼ、ぼ、僕にこれを、どうしろと…?」 「ワシ、一人だけこんなんなってるのも恥ずかしいやないの。里平ちゃんも、勃たして」 「無理!無理!無理ですよ~」 「無理とはなんだあ!?」 どうしてここでキレる?! 「やってやれないことなんかなあ、ねえんだよお!」
ベッドの上で急に熱血されても困ります、とは思っても言えない里平だった。 「どれどれ」 南原は、里平のパジャマのズボンに手をかけた。 「わっ、先輩、やめてくださいっ」 半べそになってズボンを脱がされまいと頑張ってみたものの、痩せてるくせに南原は馬鹿力で、ボクサーパンツもろとも膝の上までずり下ろされてしまった。 「ほほう、なかなか可愛いもんつけてるジャン」 ワザとらしい標準語で言って、無遠慮にジロジロと股間を眺める。恥ずかしくて、里平の顔からは火が出そうだった。 このままでは南原に触られる、と予想していたら、なんと南原はいきなり…里平のナニを口に咥えた。 「わあ!せ、せ、せ先輩っ!やめてくださいっ!」 「○∵#$жΛΘ★!」 ナニを咥えながら喋るので何と言ってるのかわからない。しかし咥えられたまま喋るというその刺激で、里平のそれはまたたくまに固くなった。
「あっ…ううっ…ん」 フェラなんて、慣れてるはずなのに。 こんなオヤジに舐められて勃起させてしまうなんて不覚。 里平がショックに呆然となったその隙に、南原は膝にかかっていた里平のパンツとズボンを足から抜き取った。 気がつくと下半身丸裸の情けない格好にされている。 「な、なにするんですかっ!」 慌ててパジャマの裾を手で伸ばし、せめて股間を隠そうとするが、丈が足りずにどうしてもナニが見え隠れする。 そのチラりずむが、ますます南原を刺激した。 「もう、もう我慢できんわあ」 言って、南原は里平の身体に覆いかぶさってきた。 「わっ!」 「里平ちゃん!」 南原は、闇雲に里平の首筋に吸い付き、パジャマの裾から強引に差し込んだ手で平らな胸を探り、猛った下半身は里平の同じ部分に擦りつけた。 恐るべき早業でいつのまにか自分のトランクスを脱いでいる。
「ふ、ふ、ふ、触れてる、触れてますよ、先輩のナニが!僕のアレに!」 里平はパニックに陥った。 男のアレが、自分のアレにむにゅとくっつき、しかも、擦り合っているのだ。冷静でいられるはずがない。 しかし…最悪に気色悪いはずなのに、股間の昂ぶりは一向におさまる気配がない。 そればかりか、一層興奮して、先端から滴がこぼれている。 「あん…あ、…うう」 もともと快楽には弱く、モラル意識はないに等しい。 身体がその気になってしまうと、意識が波に乗るのも早かった。 「き…、き、気持ち…いい…あっん」 里平の媚態につられて、南原の鼻息もどんどんあがる。 「いかん、あんまもちそうにないわ。里平ちゃん、なんか、なんかないか、滑りよくするやつ」 「うーん、やめないでくださいよ…あ、そ、そこの引き出しに」 女の子とローションプレイを楽しむときの、ボディローションが置いてある引き出しを指差した。 南原はそれを手のひらに出し、自分の指に絡めて、里平をひっくり返すと穴の中に指を挿入した。 「…うっ、き、気持ち悪いです、冷たくて」 「辛抱やで。ここから先が極楽や。ワシなあ、前立腺マッサージ、習ったとこがあるんや」 そんなこといつどこで習ったんだ!?と思ったが今はそんな突っ込みをいれているような状況ではなかった。 その言葉は嘘じゃないようで、あるポイントに指が触れたとき、太腿が痙攣するような強い刺激が前にあった。
「あっ!そこ…そこ、いいですっ、あっ、もっと強くこすってぇ…先輩っ」 パジャマの上着は身につけたまま、白い尻を南原に突き出してねだっている。 一応、羞恥心はあるにはあるが、今はそれすらも快楽のスパイスだ。 「里平ちゃんの中、ええ具合やわ。ワシの指に絡みついてはなさへん。指じゃ、足りんちゃうか」 「あ…ん」 「欲しいん?もうちょっと、大きいの、欲しいん?」 「……もう、や。お願い…イカせて…」 南原は里平の中から指を引き抜いて、指の変わりに自身のイチモツをあてがった。 「い、いくで。入れるで」 「あ!う!いっ!はぁ~んっ」 「入ったで。根元まで入ったで。ええっ!気持ちええ!あっ、ああ!イクぅ~」 「………え?」 「ふーーーーーう」 「え?」 もう? 「さて、よいしょっと」 身体の中から南原が出ていっても、里平は四つん這いスタイルのまま、動けない。
「…あの、南原先輩。僕はまだ…」 イッてません。 「里平ちゃん、風呂借りるな。ほな、先に」 南原が、寝室を出ていったあとも、里平はむき出しの尻を出したままで放心していた。 く、く、く、くそーっ!あの三擦り半男がっ! 心で悪態を吐き、目尻に涙を浮かべながら、里平は5年ぶりのオナニーをはじめるべく股間に右手を伸ばした。
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