無断転載禁止 / reproduction prohibited.
 (リーマン 切ない/18禁)
Without you【前】


 最初は、嫌みなヤツだと思っていた。
 ヤツの名前は暮林高広。おれと同期でそして同じ部署に勤める同僚。
 茶色がかった髪は少し長めで柔らかそうだ。もちろん触ったことはないが。きつめの顔立ちに銀縁の眼鏡。年上っぽく見えるがおれよりひとつ下。
 暮林の顔がおれに向けられる。
「……おれの顔に何かついていますか? 上村さん」
 にっこりと微笑んで、暮林が口を開いた。
「え? あ、いや別に」
 おれがずっと横顔を眺めていたのがばれてしまったのかと、心臓が跳ね上がった。口にくわえていたボールペンが床に落ちる。慌てて拾い上げて、何事もなかったかのように、おれは机の上の書類に視線を戻した。
 同期のおれにまで敬語はないだろう?
 なんとなく複雑な気分で、おれは心の中で呟く。入社した年は同じだが、実はおれは一年ダブっていて、暮林よりも一歳年上だ。普段でも暮林はタメ口なんか使わない。
 掃除のおばちゃんにも、アルバイトの学生にも暮林は敬語を使う。おかげで暮林は女性陣からは非常に評判がいい。
 ……いや、そんなことはどうでもいいのだが。
「なあ?」
 せっかく会話できそうな雰囲気になったのを見逃すおれじゃない。椅子ごと向き直ると暮林に声をかけた。
「はい?」
 レンズの奥の瞳は、少し緊張しているかのように細められた。おれはそんなことには少しも気づいていない。
「仕事終わったらさ、飲みに行かねぇ?」
 何度目かの、もう数えるのも面倒なくらい言い続けた台詞を暮林に向ける。
 暮林は予想通り戸惑ったような、あいまいな笑みを浮かべて首を振った。
「ちょっと用事があるので……申し訳ないのですが」
 何度も聞いた答え。ほかのヤツからの誘いも、もちろん女性陣からの誘いでさえ、受たことがないのは知っている。
「なんで?」
 我ながら、ガキっぽい問いかけに内心ため息をつく。
「だから、少し用事が……」
 そのとき、終業のチャイムが鳴った。どんなに仕事が詰まっていても、きちんと計画通りに進められるらしい暮林は、残業することなどない。さっさと机の上を片づけて帰り支度を始めている。
「おい」
 暮林は上司にあいさつを済ませ、呆然としているおれの脇を通り過ぎようとした。
「ちょっと待て」
 暮林の腕を掴んで引き留める。
 困ったように暮林はおれを見下ろした。
「いつも誘ってるわけじゃないんだしさ」
 すがる姿は、端から見ればまるで金色夜叉? などと自分で突っ込みを入れながら、おれは辺りに目を配りながら暮林を廊下まで引きずっていく。
「なんか、英会話とか通ってるとか?」
「は?」
 ボキャブラリーの乏しいおれの問いに、暮林は一瞬真剣に考え込んでいたが、低く笑い出した。
「そうじゃないんですけどね。……いわゆる野暮用ってやつですよ」
「いいじゃないかよ。一回くらい」
 食い下がるおれに、暮林は視線を外して黙り込んだ。
 もしかして怒らせたんだろうか。おろおろするおれに、暮林は苦笑しながら言った。
「……こう言うと気分を悪くされるかも知れませんけど、おれは会社とプライベートは分けたいんですよ」
「それって、おれなんかとプライベートでまでつき合いたくないってことか?」
 一瞬、頭に血が上る。だが、ポケットの中の握り拳を震わせただけでおれは耐えた。
 そんなおれのようすに、暮林は瞳を伏せる。
「言葉が足りませんでした。気を悪くしたなら謝ります」
 頭を下げられては、もうそれ以上責める気にもなれず、おれはあっさりと引き下がるしかなかった。
 一気に人の減った社内で、嫌々仕事を片づけていた。元々体育系のおれは、書類整理など苦手というよりできない。いつまでたっても減らない書類の山に、仕事を中断した。
 社内は禁煙で、喫煙者はビル内の喫茶室に行くか、ベランダに出るしかない。すでに時刻は午後九時を回っていた。改めて辺りを見回すとおれ以外だれもいなかった。
「げー。また最後の戸締まり係かよー」
 天井を見上げてぼやくと、おれは上着のポケットに入れっぱなしの煙草を掴んで、ベランダへ向かう。もうこの時間は喫茶室は閉められてしまっていた。
 ベランダに出てみると、むっとした空気に肌が汗ばんでくる。そもそも部屋の室温が低すぎるのかも知れない。この温度差が身体にいいわけがない、などと思いながら煙草に火をつける。一息吸い込んで、煙を吐き出す。
 夜空に白い筋が立ち上る。眼下にはわずかなビルの明かりと地面を走る車の光の筋。
「なにやってんだか……」
 苦笑しながら、ふと隣の部屋に視線を移した。
 このフロアにはおれが所属している部署と会議室がふたつ。そのうちのひとつに明かりが灯っていることに気づいた。
 居残りはおれひとりだけのはず?
 不思議に思いながら、だれかの消し忘れだろうとおれはそろそろとベランダ越しに移動した。
 外の騒音に紛れて低い、唸り声のようなものが聞こえたような気がした。
「ゆ、幽霊ってことは、ない、よな?」
 なぜか、おれは小声で自分に問いかける。こう見えてもおれはそっち関係には非常に弱い。生身相手なら負けたことはないんだが。
 歯を食いしばりながら、おれはそっと明かりの漏れる会議室のすぐ側に進んだ。あと一歩でベランダ越しに室内が見える。
「――い、や……」
 言葉になっていない、声。
 なんとなく聞き覚えがあるような気がして、おれはそっとのぞき込んだ。

 あ。

 思わず声を出しそうになって、おれは慌てて自分の口を塞いだ。
 机だけが並んでいる会議室にいたのは、たぶん生身の人間ふたり。
 だが、打ち合わせ中なんて代物ではなく、これは……?
 ベランダに背を向けているヤツは、ワイシャツ姿。足下にはくしゃくしゃになったズボンがまとわりついていた。その両脇に、白い脚。
 どうみても、その向こうに誰かがいる。しかも机の上に載せられて。背を向けた男がだれかは判別できなかった。羽織っただけのようなワイシャツがゆらゆらと揺れている。
 真っ最中? だよな……?
 やけに冷静に状況を確認しているおれがいた。冷静にさせたのは、男がのし掛かって腰を振っている相手の両脚が女性のものではないと気づいたからだ。
 おれはその場から動けないでいた。犯されている相手が誰なのか、それを知りたいと思っていた。
 ……いや、もう気づいている。
「も、う……」
 男の腕を掴んで許しを請う声を、おれは知っている。
「勘弁、して、ください」
 ちらりと見えた、苦しげに首を振って揺れている柔らかそうな髪に見覚えがある。
 懇願する相手を無視して、男は激しく責め立てていた。
「気持ちいいんだろうが。この淫乱が」
 責める男の声には聞き覚えがなかった。同じ会社のヤツなのか、外部のヤツなのか。
 中小企業とはいえ、社員は数百人もいる会社だ。入社して三年少々のおれが知らない社員もいる。
 だが、もはやその男がだれなのか、おれにはどうでもいいことだった。おれは息を潜めて成り行きを見ていた。
 そして
 絶頂を迎えようとした男から、決定的な台詞が吐き出された。
「ほ……ら、全部飲み込めよ……くれ、ばやしっ」
 思いきり突き上げられて、暮林の口から悲鳴に似た声が漏れ、事が終わった。

 呆然と、おれはその場に立ちつくしていた。持っていた煙草はとうに火が消え、指先にぶら下がったままだった。
 犯すだけ犯しておいて、男は自分の後始末だけ済ませると、結局おれの方へ一度も顔を向けないまま、会議室を出て行ってしまった。
 残された暮林は、ほぼ全裸に近い格好のままで横たわっていた。おれは飛び出していくこともできず――そもそも、ベランダには鍵がかかっていた――さりとて、廊下側の扉から入るわけにも行かず、とぼとぼと部屋に戻った。
 野暮用だと言っていた暮林は、あれからずっとあの会議室にいたのか、それともいったん外に出て戻ってきたのかはわからない。
 野暮用が、あんなことだとは思いたくもない。
 ……事故だと自分に言い聞かせるには無理があるような気がして、おれは激しく動揺した。
 ふと自分の机の上を見ると、山積みの書類が目に入った。もう仕事の続きをする気にもなれない。明日、早めに出勤して片づければいい。
 帰り支度をしながら、このままでは暮林と鉢合わせするのではないかと気づく。しかし、これ以上ここにいても時間の無駄でしかない。急いで出れば大丈夫だろうとタカをくくって、戸締まりを確認して部屋を出た。ほんの十数歩もあるけば、先ほどの会議室の前を通る。
 さっさと通り過ぎてしまえば、鉢合わせはないだろうと早足で歩いていく。なんとか例の会議室前を通り過ぎ、ほっと肩をなで下ろしたと同時に、背後から戸の開く音がした。
 一瞬、おれの足が止まる。
 振り返らなければいいのに、おれは反射的に振り返ってしまっていた。
「な、んだ。おまえ、まだ会社にいたの?」
 おれは何も見ていない。残業で居残っていただけだ。しかもずっと仕事をしていたんだ。
 そう自分に暗示をかけて、突然現れた暮林に驚いた顔をしてみせた。
 一方、暮林はほんの数分前まで、あれほど乱れまくっていたはずなのに、今はどこにもそんなそぶりすらない。
 もしかしたら、おれの見間違いなのかも知れない。
 ずっと暮林のことばかり考えていたから、そんな妄想を見ていたのかも知れない。
「会社にいたんなら、言ってくれればよかったのにさ。おれ、ずっとひとりで仕事してたんだぜ?」
 愚痴るように言ったおれに、暮林は意外な言葉を投げかけてきた。
「――実は野暮用は済んだんですよ。今からでよければ付き合いませんか?」
「え?」
 微笑んでそう言う暮林からは、さきほどの醜態の欠片も見いだせない。今度はおれが戸惑う番だった。
「……断るんですか?」
 上目遣いに見つめられる。
 暮林は気づいてる? おれが見ていたことを。
 それともカマをかけられているんだろうか。
 暮林の本心が読めないおれは、受けるべきかどうか迷った。実際、こんなチャンスは二度とないかも知れない。あれほど、鉄壁の防御をし続けてきた相手から、誘われている。
 ええい、当たって砕けろだ。
「いや。行こう」
 にやりと余裕の笑みを作って、おれは先を歩いた。

「悪い。ちょっとうるさいかな」
 行ったところは、居酒屋チェーン店。会社帰りの皿ー利万もいるにはいるが、客層は学生が多い店だ。懐の関係で、いつも行く店はこういう系統ばかりで、ほかに思いつかなかったことをおれは後悔した。
「大丈夫ですよ」
 笑いながら暮林は首を振る。
「へぇ? 上村さんは学生時代陸上部にいたんですか?」
 ようやく一緒に飲める機会だというのに、これといった話題を用意していなかったおれは、とりあえず学生時代の話なんかを出してごまかした。たぶん、暮林にはつまらない話だろうに、嫌な顔ひとつせず相づちを打ってくれている。
 笑い方も、飲み方もおれようにがさつではない。雰囲気は普段と変わらない。さっきの姿態は幻覚だったのではないかと思えてくる。だが、時折かすかに見せる、苦しげな表情はさきほどの激しい行為の痕跡なのだろか。
 おれは、見ては行けないものを見てしまったのだろうか。
 プライベートなことに、他人が口を出す権利はない。
 おれはただの同僚なのだから。
 そんなことを思いながら、それでもその晩はかなり楽しく過ごせたはずだった。
「そろそろ終電」
 時計を見ながら、おれは暮林に伝える。タクシーを使っても、数千円で済む距離だが、いつまでも引き留めるわけにもいかない。明日も会社があるのだ。
「……おれの部屋に泊まりませんか?」
 腰を浮かせかけたおれに、暮林がさらりと言った。確かに、暮林の住んでいる場所は、おれの部屋よりも遙かに近い。
 だけど……
 まだ終電には間に合う。こういう時、おれの優柔不断な性格が煩わしい。ここはきっぱりと断るべきだろうか。
「会社にも近いし、楽ですよ。ワイシャツとネクタイなら貸せます。スーツは……まぁ、いいんじゃないでしょうか?」
 確かにおれはスーツの種類は少ない。三日でローテーションが終わる程度だけど。
「いいでしょう?」
 暮林の上目遣いに、おれはあっさりと陥落した。
 ただ、泊めてもらうだけ。そう、床にでも転がしてもらえればいいだけじゃないか。
 そう自分に言い聞かせて、おれはようやく首を縦に振った。
 私鉄で十数分。酔っぱらいのサラリーマンや、賑やかな学生らしき連中でほどほどに混んだ車内に、おれと暮林は並んで座っていた。
 暮林は疲れているのか、うつむいたままだった。おれは、浮つく自分を抑えるのに必死で、世間話すらせず、ぼんやりと窓の向こうに映る影を見ていた。
 いくつかの駅を過ぎて、暮林が顔を上げた。
「次です」
 電車が駅に滑り込む。おれと暮林は同時に立ち上がり、ドアへ向かう。扉が開いて、おれは先を行く暮林に続いてホームに降り立った。
 暮林の部屋は駅から十分弱の距離にあった。おれは2LDKのこざっぱりした室内に案内された。駅のホームのアナウンスがかすかに聞こえてくる。
「いいのか? 泊まってって」
 少し緊張しながら尋ねると暮林は笑いながら首を振った。
「いつもより少しだけ家を出るのが遅くなるんですから、迷惑にはならないでしょう?」
 それだけ言って、暮林は奥の寝室へ消えていく。
 おれは、あまりにもおいしすぎる展開に混乱していた。アタックを繰り返して、上手くかわされ続けて、半ば諦めかけていた時に、あの会議室での出来事だった。もしかしたら暮林は気づいているんだろうか。おれが見ていたことを。
「上村さん」
「うあ、はい!」
 いきなり背後から呼ばれて、おれは飛び上がりそうなほど驚いた。
 振り返ると暮林が、両手に持ったなにかをおれに差し出している。
「とりあえず着替えです。先にシャワー浴びててください」
「あ、ああ」
 やっぱり、むちゃくちゃおいしい展開なのだろうか。ガードが固いと思っていた暮林は、実は正反対で、しかも脈があるのかも知れない。
 いや待て。そんな自分に都合のいいような展開ばかりあるわけがない。そもそも、あの野暮用だって『相思相愛』ってこともある。ほかに恋人がいるから、おれの誘いを断り続けていたかも知れないわけだ。
 なので、とりあえず今夜の成り行きは、暮林のほんの思いつきかも知れない。
 あ、でも待てよ。
 ほんの数時間前まで、恋人とやってたのにおれを誘うってのは、どういう展開なんだろう。
 ……上手くいってないとか?
 ……それじゃ、おれってあて馬?
「上村さん……」
「はい!」
 着替えを手に持ったまま、思考し続けていたらしいおれを、暮林は不審な目で見ていた。
「どうしたんです? ……というか、そんな所に立ちつくされたら邪魔なんですけど」
「あ、ごめん。シャワー浴びてきます」
 勝手な想像をしていたおれは、恥ずかしさを隠すように顔を伏せたまま浴室へ向かった。
 熱めの温度に設定されたお湯を全身に浴びて、おれはつまらない想像をすべて流すことにした。勝手においしい展開を想像していても空しいだけだ。
 強面の体育会系だと周りではそう思われている自分が、実は優柔不断で、しかも小心者で、過去に幾度も本命を逃してきたなどと、だれも知らない。
 降り注ぐシャワーを受けながら、おれは両頬をパシっと叩くと浴室を出た。
「お先」
 濡れた頭をタオルで拭きながらダイニングに行くと、暮林は冷蔵庫から缶ビールを出して手渡す。
「ゆっくりしてて下さい」
 そう言いながら、暮林は浴室へ向かっていった。おれはその後ろ姿をぼんやりを眺めながら缶ビールのプルトップを引き上げて、一気に半分ほど飲み干した。
 ソファに腰を下ろしながら、部屋の端に置かれている文庫棚の背表紙をちらりと見てみたが、自分の範疇外であまりよくわからない。娯楽関係――例えばゲーム機とかは見あたらない。
「そりゃそうか。おれみたいに、家でゲームとかやってる所なんか想像できないよなぁ」
「……なにが、想像できないんですか?」
 うわっ、とおれはまたもや飛び上がるほど驚く。……学習能力がないのか、暮林が静かに近づいてくるせいか。
「いや、別に」
 へらへらと笑ってごまかしながら、顔を上げると暮林はパジャマのシャツをはだけたままの格好で立っていた。
 予想通り日焼けしていない白い肌に、もう少し肉を付けた方がいいのでは? と思わせる痩せた身体。慌てて、視線を上げると暮林は微笑んでいる。
「本音を言うとですね……」
 暮林は自然におれの隣に腰を下ろす。手には缶ビール。
「上村さんのこと、気にはなっていたんですよ」
 お約束の展開に、おれは顔を向けることもできず、半分まで減った缶の中身を覗いていた。
「断り続けていたのは……そうですね、あっさりと受け入れられてはつまらないだろうと思いまして」
 これって告白、か?
 喉元まで出かかった言葉をおれはなんとか飲み込む。
「勝手なことを言っていると思っているでしょう?」
 耳元で囁かれて、身体中の血液が一気に一点に集まるのが分かる。
「でも、あれ……」
 言いかけて、慌てて自分の口をふさいだ。あの会議室のことは言ってはいけない。
「あれ、とは?」
 至近距離にある顔。息が頬にかかる。
「いや、なんでもない」
 首を振るおれの膝に暮林の手が伸びてくる。びくりとしたおれに、暮林の低い笑い声が漏れる。
「抱きたくは、ないですか」
 囁かれて、おれの薄っぺらい理性は吹き飛んだ。

 数時間前に抱かれていたその身体は、驚くほど敏感になっているらしかった。経験値の少ないおれの愛撫にさえ、身体を震わせる。
 いったい、どういう成り行きでこうなったのだろう?
 浮かぶ疑問に、萎えそうになってしまい慌てて思考を中断する。あの会議室の相手はいったいどういう関係なのか、どうして今さらおれに、抱かせるのか……。
「上、村……さん?」
 うわずった声で、暮林が名を呼ぶ。
「ん?」
 顔を上げると暮林は、辛そうな顔をしていた。おれに抱かれるのが辛いのか、それとも……。
「いい、の、かな?」
 尋ねるおれに、暮林は背中へ両手を回しておれの身体を引き寄せた。
 そっと口づけると、暮林の方から舌でおれの歯列を割ってくる。絡ませながら指先で胸の突起を撫でると、びくりと太股のその身体がしなる。
 さらに手のひらを下半身に滑らせて、すでに隆起していた暮林のものに触れた。指を絡ませ、撫で上げると暮林は腰を浮かせた。おれは舌を這わせながら身体をずらしていく。暮林の先走りに濡れた先端を見つけ、舌で触れる。
「あぁっ」
 暮林の手がおれの髪を掴む。口に含んで吸い上げてやると、暮林は腰をガクガクと震わせた。追い打ちをかけるようにさらに強く刺激を与えていく。
「もうっ……だめです」
 懇願するように暮林の手がおれの髪を引っ張る。顔を離し、手で包み込むようにして上下に動かしてやると、あっさりと暮林は果てた。吐き出した液体を手にとって、暮林の後部に塗りつける。指は吸い込まれるように難なく入ってしまい、会議室での行為の名残があるような気がした。指を増やしていっても、抵抗は少なく感じて少し怒りがこみ上げる。
 乱暴に両脚を抱え上げると、暮林は苦しげにうめいた。そんな表情を見ないようにして、ゆっくりと自分自身を押し当てていく。
「くっ……」
 暮林の手が、両脇に置いたおれの腕を掴む。息を吐き出したのを見て、おれは挿入を図る。先端だけ少し苦労したが、それから先は楽に侵入を果たせた。少しずつ腰を動かすと、苦しいのか暮林は眉間しわを寄せて、唇を噛んでいた。
 あとは夢中で快感を得るためだけに夢中だった。過去はどうであれ、今この手にあるのなら、もはやどうでもよくなっていた。
 ただ、今この時間が現実であれば幸せだと思った。

Without you【後】へ続く
「文字数オーバーになってしまいました。申し訳ありません。」
...2002/7/23(火) [No.17]
初瀬主計
No. Pass
>>back

無断転載禁止 / Korea
The ban on unapproved reproduction.
著作権はそれぞれの作者に帰属します

* Rainbow's xxx v1.1201 *