金色のリボンが掛かったコバルトブルーの箱 中には石畳を敷き積めた様な四角い生チョコ、もちろん手作りで隠し味はハチミツ 口に入れると蕩ける甘さ。
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「開けてよ。早く龍大が喜ぶ顔が見たいんだから」 「いやだ。楽しみは後に取っとく。遥音は本当にせっかちだよな」 ボクらは6年越しの恋人同士で、生まれて17年の幼なじみ(親がいとこ同士) 誰よりも側にいるし、どんなコトも知っている。 「せめてカードだけでも読んでよ。中に入っているから」 龍大は一度言い出したら聞かない。 でもボクだって喜ぶ顔が見たい。 「こっち見るなよ」 ぶっきらぼうにそう言って、箱を手に部屋の隅に行きボクに背を向ける。 龍大はテレやだから・・・ 金色の細いリボンが床に落ち、パラフィン紙の上に置いておいたカードを手に取る。 龍大の武骨な指がカードを開く。 まるでボクの胸の奥底まで開かれていく様な不思議な感覚。
6年前は並ぶと同じ高さだった背も、龍大だけが嫌味なほどすくすくと育った。 ボクを抱き留める厚みのある胸、繋ぎあう時の大きな手、甘く囁く低い声。 いつもボクだけ、ドキドキさせられっ放しで何だか悔しい。 同じ男としてコンプレックスを抱かなくもないが、恋人としてはかなり居心地がいい。 でも、そんなカッコいい龍大が欲しているのは、紛れもなくボク。 ボクも龍大が、好きで大好きで堪らないから・・・・ この関係が愛しいから、ボクは毎年手作りチョコを贈る。
カードに目を落とす、龍大の耳が赤くなった。 ボクのメッセージにドキドキしてくれた? 一年に一度くらいボクから、ドキドキさせたって良いよね。 そーっと後ろから近づくけど、まったく気が付かない。 手を伸ばしサッとチョコをひとつ摘んだ。 「遥音返せよ。オレのチョコ」 ボクは龍大を挑発する様にチョコを口にほり込み歯間から見せ付ける。 すると龍大はボクの肩に手を掛け壁に体を押し付けた。 「龍大、痛いよ・・・放して・・」 黒く濡れた真直ぐな瞳で見つめられると、胸の奥が苦しい。 切羽詰って思わず顔を背ける。 許されずに、顎をつかまれ上を向かされた。 驚いて少し開いたボクの唇に挑む様に龍大の舌が滑り込む。 龍大の舌が口腔を探る。 チョコは見つからない。 口付けが深くなり、こするように口壁を舐められる。 ゾクゾクと背筋が痺れて我慢できずに膝から崩れ落ちる。 龍大の目がふと笑った気がしてボクは静かに目蓋を閉じた。 角度を変えて舌が押し入る。 ボクの舌は絡め取られ、舌下で蕩けたチョコが龍大の舌で探り出された。 チョコと一緒にボクの舌まで強く吸われる。 二人の舌の上でチョコが溶けていく。 「んっ・・りゅう・・」 熱っぽい声が漏れる。 ボクまで食べられてしまいそうなキス。 息も着けないほどの、長いキスに頭の芯がぼーっとして来た。
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ボクらにとって、バレンタインは特別の日だ。 6年前の今日、ボクらは初めてキスをした。唇がぶつかり合うような幼いキス。 その日、ボクは龍大の喜ぶ顔が見たくてチョコを作っていた。 すでにクラスの女子から、何個かチョコを貰っていた様だったけれど気に為らない。 ボクが作るチョコがきっと一番。 何故なら誰よりも龍大が好きなものが分かるから・・・ チョコを細かく刻み湯せんに掛ける。 美味しくなぁれとヘラで混ぜ合わせる。
二人の夏祭りの思い出。 龍大とお揃いの宝物のお面に熱いチョコを流し込む。 ぐずぐずとウルトラマンのお面がチョコの熱で変形していく・・・ なぜ・・? ウルトラマンの形のチョコを龍大にプレゼントしたいのに・・・? ボクは溶けたチョコがあんなに熱く成るなんて知らなかった。 さっきまでの楽しい気持ちは何処に行ったんだろう・・・・・
約束の時間に龍大は遊びに来たけれど、ボクにはプレゼントできるチョコは無かった。 「ごめん 何も無いんだ・・・失敗した・・・」 言葉の続かないボクの唇にごつんと龍大の唇が当たる。 すぐに頬に次の口付けが落ち、ボクは泣いていることに気付く。 龍大はいつも優しい。 肩を並べてしゃがみこむ。 一仕切り泣いたボクの顔を、心配そうに覗き込み。 「遥音、鼻にチョコ付いてる」 赤い舌でペロリと舐め取った。 「甘くて美味しい・・・ありがとうな・・・」 照れくさそうに言って笑う。 ボクはいつも龍大の言葉で救われる。 「まだ、あるから食べてよ」 硝子のボールに残ったチョコを互いの指で舐め笑った。
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蕩けたボクの口角に滲んでいたチョコさえも貪欲に龍大は舌で舐め取った。 ボクの口の中はもう甘い後味さえ残っていない。
「ケチ。一個くらい味見させてくれてもいいと思うけど・・・」 ボクは恨みがましく拗ねてみせる。 「遥音って、本当可愛いな・・・」 嬉しそうに目を細めて笑う。 「可愛いじゃなくて、他に言うことはないの」 「遥音 愛してる・・・」 真顔で囁く龍大にまたもボクはドキマキしてしまった。
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