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 (幼馴染 涙 微妙にバカップル/15禁)
かずくん


「どうしてこんなことになったのか、考えなさい」

俯きがちになる私の耳をぐいと引っ張り、先生は続けた。

「よおく考えて、反省なさい!」

横目で、先ほど不注意で怪我をさせてしまった男の子を見ると、額にキャベツみたいなガーゼを貼りつけていた。

おもちゃのキャベツを焼くままごとをしていたフライパンで、私に殴られた後だからこそ、余計滑稽に見えた。

思わず笑いが零れた私の頭を、先生が小突く。

「かずくんがどれだけ痛かったか、あんたにはわからないの?!」

かずくんと呼ばれたその男の子は、涙で真っ赤に腫らした目で私を睨みつけていた。

青い鼻水がかちかちに固まっていて、どんなに怒っていようが、それは滑稽にすぎなかった。

「あやまりなさい!」

先生は、口やかましく怒鳴りつけた。

「あやまりなさい、かずくんにあやまりなさい!」

顔を真っ赤にして怒る先生も、ある意味滑稽だ。

かずくんのために、何でそこまで必死になるのだろう。

馬鹿らしいじゃないか、あいつの不注意で……

しかし、私は鼻が痛くなるほど涙を流しつづけ、嗚咽を漏らしてばかりいた。

「あやまるのよ!」

先生が、もう一度私の耳を引っ張った。

 

どうしてこんなことになったのか、考えよう……

私は胸が痛くなるほど深いため息を零し、涙を零さないように天井を仰いだ。

トイレの個室は、上にも下にも、確かに隙間はあった。

だが、飛び越えるにも、潜るにも適当なものではなかった。

ドアの向こうで、いやらしいくつくつ笑いが漏れてくる。

「反省したか?」

私は、ドアに体当たりしようかとぼんやり考えた。

「おい、反省したのかよ!」

いきり立つ相手が、ドアをガタガタと蹴りあげた。

そんな、些細な暴力にすくみあがる私がいる。

馬鹿みたいに、怯えている私がいる。

涙が、止まらない……

「反省しないと、出さないぞ?わかってんのか!」

上履きのない私の靴下だけの足先が、怯えと寒さで震えていた。

足がすくむというのは、こういうことなのかもしれない。

靴下に、涙の染みが広がっていく。

「あやまれって言ってんだよ……、おい、どうなんだ、何とか言えよ!」

何をあやまれと言うのだろう?

私は頭を振って、涙を振り払った。

それでも、私の目は濡れた。

何をあやまれというのだろう?

何が、彼の気に触れたのだろう。

「おい、何とか言えこら!」

ダンッと、よりいっそう強くドアが蹴り上げられた。

私の心臓は、一瞬収縮したかもしれない。

いつのまにか、私はしゃがんでいた。

ズボンもない下着だけの尻で座ったタイルは、驚くほど冷たかった。

タイル上にどんな汚物が散っていたからといっても、私が座らないわけにはいかなかった。

立ちつづけることは苦痛だった、相手と正面に向かうことだけは苦痛だった。

こうやって、座って、あいつがドアを蹴上げるのを、眺めていればそれでいい。

あいつは、馬鹿なんだ

怒ることしかできない、馬鹿なんだ

けれど私は肩を震わせて、嗚咽を漏らした。

「泣く暇があったらあやまれ!」

彼は、ドアを蹴り上げる。

「あやまれよ!」

何度も、何度も

一度、大きくドアが振動した、……でも、それが最後らしかった。

「何やってる!」

聞き覚えのある太い声と共に、数多くの足音が迎えにきた。

「何もしてねぇよ!」

「何もないならそこをどきなさい!」

「何もねぇっつってんだろーが!」

「じゃあどきなさい!」

「うっぜぇなぁ、何もねぇよ……!」

私は、項垂れて、そのまま自分を自分の腕で抱きこんだ。

もう、終わりだよ……かずくん……もう、終わりだ……

 

「お前、進学するんだろ?」

かずくんがぶっきらぼうに進路を聞いてきたのは、つい先日だ。

「うん……」

「どこだよ?え?どこなんだ?」

かずくんは、身を乗り出した。

「……美大……」

「へぇ……お前、んなとこ行くのか?」

「うん……、かずくんは?」

「俺?俺はなぁ……」

へへへと、照れくさそうにかずくんは頭を掻いた。

「コックになろうかと思ってさ……、専門学校な」

「コック?」

意外な単語に、私は目をぱちくりさせた。

「そう、コック」

「……見えない……」

かずくんはスポーツ選手にでもなるんだと、思ってた。

「どうしてコックになろうと?」

「ん?そりゃ……おま……」

かずくんは言いよどんで、顔を赤くした。

私の顔を見て目を細めた気がしたが、それは儚い一瞬だった。

かずくんは、遠くの校舎を食い入るように見つめた。

「うまい料理っていうものをさ……この手で、作ってみてぇなぁとか……」

嘆息を零した私の額を小突いて、かずくんはだらしなく微笑んだ。

「お前にも作ってやろうと思ってんだよ……、本気だぜ?」

「えぇ?ホントぉ?」

信じきれない私に、かずくんは頬を膨らませた。

「本気だぜ、俺?」

 

教師に運ばれた保健室でしばらく寝ていなさいと、私は残された。

校医は不在だったが、怪我などしていない私には好都合だったのだろう。

教師は私の荷物を運んでくるよと、優しい言葉を言い残して去って行った。

私はベットに寝転んで、白い天井を眺めた。

ワイシャツを羽織っただけの身体はいくら毛布で包んでも、冷えた。

目を瞑ろうかと、眠ろうかと思ったけど、私は天井を見つづけた。

じわりと、涙が浮かんで、頬を伝った。

「かずくん……」

掠れた声で呟けば、驚くほど静かな空間だということに気付いた。

「かずくん……かずくん……」

連呼すれば、するほど、首が締め付けられていく。

思うように息ができなくなって……、ああ窒息死、したい……

 

かずくんがふいに手を伸ばして、私の頬を撫でた時

かずくんの強い眼差しに、私が目を奪われた時

すべてが崩れ去っていくような気がした。

噛みつくようなかずくんのキスに、私は身を捩るだけの抵抗しかできなかった。

私とかずくんでは、力も、身体の大きさも、違いすぎた。

かずくんは、嘆息をこぼしながら私の平たい胸に顔をうずめた。

そんな場所にあるのは硬い突起だけだと私は言ったが、かずくんはやめなかった。

かずくんの舌が、胸の突起を転がし、舐める。

私はぞくぞくと背中に這いあがる痺れに、頭がどうにかなってしまいそうだった。

そろそと内股にかずくんの手が触れ、私は跳ねあがりそうになった。

どうしてこんなことをするのか、私は問うたのに、かずくんは私のものをズボンの上から撫であげるだけだった。

いつしか、かずくんの手が私の下半身を裸に剥いた時、もうどうでもよくなった。

かずくんが私に何をしようが、私をどう思おうが、どうでもいい……

今はただ、かずくんが与えてくれるこの痺れるような快感が、現実なのだ。

私はぼんやりとそう思って、目を閉じた。

「好きだ」

そんな睦言を、私はただ喘いでいる自分の声と共に、聞いた気がした。

 

ベットから起きあがると、トイレで発見されたのだろうズボンを穿いた。

私は立ちあがらねばならなかった、私は歩かなければならなかった。

徐々に乾いていく涙で、顔がぱりぱりになる。

それでも私は行かなければならなかった。

私は、はっと気付いたのだ。

何故私が閉じ込められたのか、彼がどうして怒ったのか。

私は、……私のことしか見えていなかったのだ。

保健室を後にして、私は職員室に向かって駆けた。

 

「もうやめよう……」

私の掠れた声に、かずくんが大きく目を見開いた。

「もうやめよう……、こんなこと……」

かずくんは私を抱きしめたまま、固まった。

彼の手は、私の下着の中で戸惑った。

人気のないトイレの中で、私の震える息と、かずくんの唾を飲む音が生々しく、聞こえた。

そこには私と、かずくんしか存在しない。

私と、かずくんしかいないのだ。

私は、涙を一滴(ひとしずく)零して、かずくんの腕から身体を離した。

思いがけず、かずくんは簡単に私を離した。

「不毛だよ……、こんなの……」

私は、かずくんに抱き始めたこの感情に、戸惑っていた。

いつか、私全体を支配してしまうだろうこの感情に、戸惑っていた。

かずくんは俯いたまま、私を見ようとしなかった。

打ちのめされた彼は、私を、急な別れを持ちだした私を許してくれるだろうか?

祈るような目でかずくんを見つめていた私に、彼はぼそっと呟いた。

「脱げ」

「嫌だ……」

私は首を振った。

「嫌だ……、もうこんなこと……したくない……」

これ以上続ければ私は、正常でいられなくなるだろう。

これ以上彼とし続けていれば、私は私を許せなくなるだろう。

「脱げ」

もう一度目の声は強く、はっきりしていた。

私はひたすらに首を振りつづけ、かずくんは無理にズボンを脱がそうとしてくる。

私は彼を突っ張り、しかし彼は避けるようにしゃがみ、私のズボンを引き摺り下ろした。

私の上履きに手をかけ、片足ずつズボンを脱がしていくかずくんの頭に、私の涙が零れた。

「かずくん……いや……、いやだ……」

「何でだよ……」

かずくんもいつのまにか、涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。

やがて私の上履きが、ズボンがタイルの上に投げ捨てられた時

私は苛立ったかずくんに首根っこを捕まれて、個室に押し込められた。

 

背伸びをしてドアのガラスを覗きこむと、椅子に座らせたかずくんを隅に置いて

先生たちが黒くかたまり低い声で、話し合っていた。かずくんはふて腐れたような顔を、背けた。

その反抗的な目は、やがてドアのガラス越しに見つめていた私の目とかち合った。

かずくんは目を大きく見開いたが、はっとしてそれは背けられた。

私は唾を飲みこんで、ドアに手をかけた。

一斉に先生たちの視線が私に注がれた、どこかで私を気遣う声が聞こえる。

でも私の目には、かずくんしか入らない。

かずくんの声しか受け付けない。

「かずくん……」

私をかずくんの側から引き離そうと、先生が躍起になるが、私は彼の名を呼びつづける。

「かずくん、かずくん……っ」

「戻りなさい!戻って寝ていなさい……!」

「かずくん……、わた……っ私は……!」

かずくんがゆっくりと顔を向ける、私は涙を惜しみなく零し、微笑んだ。

「私……かずくんが、好きだ……」

「戻れ!戻れと言っているんだ!」

かずくんは目を開け、口を開け、阿呆みたいに目を潤ませた。

「ごめん……でも……、好き……かずくんが……っ」

「先生の言うことが聞こえないのか!戻れといってるんだ!」

かずくんが勢いよく立ちあがった拍子に、椅子が音をたてて床に倒れた。

職員室中が、静まった。

教師が息を飲むなか、かずくんはまっすぐ私に向かって歩いてきた。

私は迷うことなく彼に向かって腕を差し伸ばし、躊躇なく彼も私の腕を掴んだ。

叱咤と怒号を職員室の中に残して、私とかずくんは駆けて行った。

 

「バカみたい……」

はあはあ息を整えながら、私は微笑んだ。

「バカだな……!」

かずくんも額に汗を光らせて、まぶしそうに微笑んだ。

「嫌じゃなかったのかよ?」

「嫌だよ」

かずくんは、顔を強張らせた。

でも私は、だらしなく微笑んだままだった。

「のめりこみそうで……嫌だった……」

汗が、顎を伝って流れ落ちる。

「夢中になりそうで……どうしようかと、思った……私は……こんなにも……」

かずくんを好きになってしまったんだなぁ、私の呟きを、かずくんは照れながらも唇で受け取った。

最初から、こうすればよかったんだ

かずくんが、笑いをこらえながら、言う。

こんなにも、簡単だったのによ……

私は、かまわずに笑った。

簡単だからこそ、言ってしまうのが怖いんだよ……消えてしまいそうで、さ……

かずくんは小さく頷き、私は目を細めた。

ごめんね、かずくん……

何がだよ?

私は目を瞑り、いつかのかずくんの泣き顔を思い浮かべた。

キャベツみたいなガーゼを額に貼りつけて、涙に真っ赤に腫れた目で私を睨みつけた、

かずくんを。
「微妙な性描写だけれども一様15禁です。」
...2004/10/3(日) [No.135]
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