無断転載禁止 / reproduction prohibited.
 (日常 せつない?/--)
……だろう。


からからと窓をスライドさせる音に、目を開く
すぐ側にあったぬくもりが、消えていた
首だけをねじって、ベランダに顔を向ける
「眠れないの?」
ベランダに出たアキは、振り向かなかった
渋々上体を起こして、瞼を擦る
「ホットココアでも、買ってこようか?」
そう言って、アキに向かって微笑んだ
その時
には、もうアキの姿は、どこにもなかった
あの鈍い音が空耳でなかったことに気付いたのは、
ベランダから下をのぞきこんだ時だった


ぽんっと軽く肩を叩かれて、やっと友澤は目を開けた。
視界が開けると、そこには山のように積まれたノートが現れた。
ぼんやりした頭で、それが何かを思い出していく……
「はぁ……憂鬱……」
机に肘をついて、深深とため息をついた友澤に、酒井は肩をすくませた。
「そうは言っても、快く頼まれたんだからやるのがお前だろ?」
「あのねぇ……」
友澤は苛々しながら酒井を振りかえった。
「一体誰が快く頼まれたっていうのかなぁ、酒井くんは」
「快く頼まれてたじゃないか、俺はこの目で見た」
「目、悪いんじゃないの?……これは、仕方なく……引きうけたんだ……」
友澤は目をつむって、ようやくこのノートの山の記憶に辿りついた。
「優秀な頭脳を持つ友澤くんなら、俺たちの宿題だって何のその、だろ?」
と、極上の笑顔で残酷なことを吐いた野本の顔が、まざまざと浮かび上がる。
「まさか、これくらいのことでお手上げなんて、言わないよな?
何て言ったって、IQ200だし?じゃあ、これ、全員のノートな。
明日までにきっちり、頼むぜ?なぁ、天才児くん?」
嫌味な言葉を丸々思い出して、友澤は更に眉間に皺を寄せた。
「誰が天才児だ……、大体なぁ酒井!」
友澤は急に立ちあがると、ぎっと酒井を睨みつけた。
「お前が俺のことを変に誇張するからこんな目に遭ったんだぞ!
これにはお前の責任だってあるんだからな!」
「……証拠は?」
「金子くんに聞いた、彼はとっても素直な男だ」
「……で、その金子くんをお前は次に狙ってると」
「そうそう、次は金子くんに……」
酒井がくっくっと、笑いを抑える。
それで、友澤もピンときて、わなわなと唇を震わせた。
「絶交だ!絶交してやる!」


勢いあまって部屋を出たのはいいが、どこへ行くと言うのだろう?
友澤は、今出てきた寮を振りかえった。
俺は、この町のことを知らない
俺は、この町の学校にただ通っているだけだ……
見渡せば、寮の部屋から見下ろしていた景色が広がる。
見覚えのある景色、だが、たったそれだけだ。
一年あまりしかその景色に慣れていないためか、その景色の先を歩いてみたいとは思わない。
俺は、この町を知らない……
じわりと目に涙が浮かんできた時、
「友澤?……どうしたの?」
金子くんが通学鞄を提げて、首を傾げていた。

金子くんが缶の中のココアを飲み干す。
その、薄く開いた唇に、思わず喉が鳴る。
でもそれを気付かれないようにと、友澤もココアを飲み干した。
コンビニの外が寒いのは変わりないが、部屋を飛び出した瞬間よりは
あたたまっているような、気がする……
友澤は、落ちていくだろう夕陽に照り輝いた空を見上げた
何もかもが、金色に輝いて見える……
「また喧嘩してた?」
「……まあね……」
「いいじゃない、喧嘩するほど仲がいいって言うし」
「……ただのことわざだろ?」
「本当だと、いいのに」
「やめてくれよ、あいつと仲良しこよしなんて……怖気が走る……!」
「そう?」
金子くんがきょとんとした顔で、友澤を見上げる。
「そう」
友澤は、その純な表情から目を逸らした。
「……羨ましいよ、俺……俺も喧嘩とか、仲直りとか、してみたい……」
「……それほど、いいものじゃないよ……喧嘩なんて……」
友澤は目をつむる。
「あー、金子くんみたいな子がさ……親友だったら……とか……」
視界を徐々に開けていった友澤は、側で金子くんが顔を真っ赤にしているのを見た
耳まで、真っ赤
薄く開いた口は、少々荒く、息を吸う
抱いてみたい
ぼんやり、そう思った


金子くんを連れて部屋に戻ってみて、友澤は思わず素っ頓狂な声をあげた。
「何やってんの?」
金子くんもおどおどしながらも、友澤の身体がひょっこり中をのぞきこんだ。
「べ、別に……りょ、量が多いから……よ……」
酒井は、友澤が今夜中に片付けるつもりだった宿題の山――ノートの山に、
シャーペンを走らせていた。こんなこと、するような奴じゃないと思ってたのに……
呆然とする友澤に、酒井は照れ隠しか金子くんが来ていることを指摘した。
「何で金子がここに?」
「俺が呼んだ」
「ふーん……」
カリカリと、ノート上に走るシャーペンの音
もう酒井は、照れてなどいなかった
友澤は、苛々しはじめた
「俺が、呼んだんだぞ?」
「それが?」
「……少しは気をつかうとか、そういうことできねぇのか!」
「……はーん、なるほど……とうとう金子に手を出すわけだ……
別にいいぜ?俺、気にしないし……、男同士の濡れ場なんて…………、
もう聞き飽きてんだよ……勝手にやってくれ……」
ひらひらと手をふられて、友澤はカチンときたが、
「と、友澤……」
くいくいと服の袖を引っ張り、今にも泣き出してしまいそうになっている金子くんに
気付いて
気持ちを落ち着けた。あんな奴、ただのマネキンだと思えばいい。
金子くんにもそう、伝えてみたが、顔を真っ赤にするだけで、逆効果だった。


結局、金子くんが恥ずかしがるので、友澤は彼を腕の中にすっぽりと収めるだけにとどめた。
自分の膝の間に座らせて、背後から、優しく抱きしめる。
それだけでも、金子くんが羞恥に震えているのがわかった。
そんな金子くんを愛らしいと思うと同時に、ここに酒井さえいなければと恨めしく思う。
金子くんは、一体どんな声を出すだろう
金子くんは、どんな顔をするのだろう
金子くんの中は、どのように俺を誘う(いざなう)だろうか
考えれば考えるほど、自分の身体が熱くなるだけで、満たされることはない


キスの一つでもしてやればよかったかと思い返したときには、もう金子くんを部屋に返した後だった。
「大切にしてんだな」
酒井は両腕をぐっと伸ばして肩をほぐしながら、横目で友澤を見た。
「別にここでやってもよかったのに……金子くん優先なわけ?」
「まあね」
「へぇ……紳士なことで」
「紳士のどこが悪い」
「べーつにー、わるくないですよぉ」
友澤は机の上に山積みになっているノートをぱらぱらとめくる。
どれもこれも、もう酒井が済ませてしまっている。
優しい奴なのか、ただの暇人なのか……、わからない。
「ただ、さ……大切にしすぎるのも……、大概にしろってさ」
「何?」
「秋伸のような終り方だけは、すんなよ」
バサッ、友澤の手からノートが滑り落ちた。
床に落ちた誰かのノートを、「しゃーねぇなぁ」と酒井が拾って友澤の手に渡す。
友澤は、そのノートを見つめるだけで、手にとらなかった。
酒井はため息を零すと、そのノートを机の上に無造作に投げ捨てて
友澤の顎を持ち上げた。
友澤は、泣いてなどいなかった。
ただ、真っ直ぐな眼差しで、酒井を見上げるだけだ。
「お前さ……」
言いかけて、酒井はその言葉の続きを友澤の口の中に押しこんだ。
反射的に逃げようとする友澤の腰を掴まえ、酒井は友澤の口腔を犯す。
「んー、んーっっ!」
友澤は顔を左右に振って酒井の舌から逃れようとしたが、力の差は歴然で、
逃れることなど、できない。
酒井の舌は傍若無人に友澤の口の中で暴れ、必死で逃げ惑う彼の舌を強引に絡めとる。
その激しいキスに、それはキスかどうか、ただの暴力じゃないかとも思ったけれど、
友澤はあっけなく陥落した。ようやく唇を離されたときには、しっかり酒井の身体にしがみついて、
荒くなった息を整えていた。
「好きならさ、強引に奪えばよかったんだよ」
酒井は、驚くほど優しい手つきで、友澤の背中を撫でていく。
友澤は相次ぐ酒井の奇行に固まるだけだ。
「いつまでも、遠慮とか、譲歩とか……してっから、失うんだ……」
友澤は、目をつむった。
ああ、確かにそうだ……そうだったんだよ……
男同士だからとか、友人の弟だからとか、そんなことに気兼ねして……
「欲しかったら、欲しいってはっきり言えば、それでいいんだよ」
でも、酒井……欲しいからって、いつでも正直に言っていたら……
「キリがないじゃないか……」
「ああ、キリないね」
「馬鹿みたいじゃないか」
「ああ、馬鹿だね」
酒井は、そっと友澤の尻に手を回した。
「馬鹿だよ、俺は馬鹿だよ……、でも、……仕方ないだろ?欲しいんだから」
「貪欲だよ……」
「貪欲で結構、……欲のない人間なんていないさ」
友澤は、黙って酒井の肩口に唇を押し付けた。
酒井はそれに答えるように、彼のベルトに手をかける。
作者のホームページへ「書けないことに日々苛々。」
...2004/9/26(日) [No.132]
K-E
No. Pass
>>back

無断転載禁止 / Korea
The ban on unapproved reproduction.
著作権はそれぞれの作者に帰属します

* Rainbow's xxx v1.1201 *