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 (全寮制・無口な先輩×巻き込まれ後輩/18禁)
屋久くんの憂鬱<後編>




あくる日は土曜日だった―――。
 普通の寮なら土・日の週末はどれだけ帰省するんだろう…?
 只、この寮は週末だからといって寮内の人数が減る事は余り無い。
 それでも昼を過ぎれば、皆どこかに出掛けているのだろう…。
 寮の中は何時もよりは静かだ。
 大辺も霧島と前々から約束していた映画を見に行ったし、藤木は瀬尾と買い物だって言っていた…。
 秀由は―――確か、志岐嶋とゲーセンの筈だ。
 俺も一応お誘いを受けたが、イマイチ乗る気になれなくて断った。
 なんだか…軟派に出掛ける気力も無い―――。
 腹も減ったし…寮の1階の食堂に行こうとして、上にあがる階段を見上げてしまう……。
(二階堂先輩は……寮に居るのかな…)
 って、俺―――何考えてるんだ?昨日された事忘れた訳じゃねぇーだろ?
 あんな―――。あんな……。
 ふと気付くと、無意識に階段を上がって4階の踊り場に居た。
(あ、あれっ?)
 そ、そーだ!此処には小城先輩も居る。小城先輩の様子でも見て来ようかな…。
 確か小城先輩の部屋は―――。
 数歩歩いた先に俺が最も苦手とする奴の顔がある―――。
 不機嫌そうな面で俺を睨んでいる。
“此処は2年生のフロアだぞ”―――何も言わないが瞳がそう言っている様に見えた。
 逃げ出すのも癪なんだけど……結局その高圧的な態度に押されて、回れ右して4階の廊下を小城先輩の部屋とは逆方向に疾走してしまった。
 意味も無く、俯きながら疾走していると、突然誰かの腕の中に抱きとめられ停止させられる。
 見上げると、それは―――。
「屋久?こんな処で何してる?」
 二階堂先輩が俺を抱きとめ、見下ろしている……。

 コンナ処デ何シテル?

 二階堂先輩が言った言葉が俺には“あの男”が言った様に聞こえた―――。

 まるで、小城先輩に近付くなって、言われてるみたいに―――。

「放せよっ!」
(自分は助けに行かなかったくせに!)
「屋久?」
(“その必要は無い”って、先輩を見捨てたくせに!)
「おい?如何したんだ……一体…?」
(なのに当たり前の様に傍に居るんだ)
「お前なんか、大嫌いだっ!!」
 俺を抱きとめている腕を振り解く様に暴れて、その言葉を口に乗せた時―――。
 俺を見下ろしていた人の表情が見る見る変わっていった……。
「嫌い―――だって…?」
「えっ?あ、あの……。二階堂…先輩……?」
「俺の事、そんなに嫌いなのか?」
「えっ?あ…あの……。な、何…?」
 その表情は怒っているのか―――悲しんでいるのか―――。
 悲しんでる?んな訳ないよな…?
 俺に大嫌いって、言われただけで、何で先輩が悲しむんだ?
 先輩の複雑な表情を読み取ろうと見上げていたら、俺の身体がフワリと浮いた―――。
(えっ?)
「ちょっ、ちょっと、二階堂先輩っ!?」
 如何してこの人は、俺を直ぐ肩に担ぐんだ?
「下ろして!下ろしてよ!下ろせっ!!」
 俺がどれだけ怒鳴っても暴れても、ものともせずスタスタと何処かに向う。
 って、何処にぃー?



 ドサッ!と見慣れない部屋のベッドの上に行き成り投げ出された。
 部屋の間取りは全部屋共通だが、置いてある物で随分雰囲気が違う。
「……此処は…?」
「俺の部屋」
 恐る恐る訊ねた俺に、二階堂先輩はにべも無く答える。
「なんで―――。…俺、帰る―――」
 起き上がり、ベッドから降り様としたら、行き成り二階堂先輩が覆い被さってきた。
 そのままキスされて―――。
 この人のキスはヤバイ―――。
 咄嗟にそう思った俺は、この間の様に舌が侵入してこない様、必死で歯を食い縛るが、トレーナの中に忍び込んできた手が―――。
「あっ……」
 俺の胸の―――…。胸のぉ~……。
 両方の突起を親指の腹でグリグリやられて思わず声が出た。
 その隙をついたかの様に、先輩の舌が侵入してきて、俺の口腔内を好き勝手に弄る。
 勿論その間も、俺の胸の突起は擦られたり押し潰されたりして、何だか段々痺れた感覚が全身に広がっていく様な気がする。
 身体の力は抜けていくのに、下半身には血が集まっていくのが自分でも判る。
 キスされて、胸弄られて、感じるなんて女じゃあるまいし……と思いつつ、電車の振動でも勃つ、このお年頃―――仕方が無いと言えば仕方が無いのだが……。
 頭を振ってキスから逃れた瞬間、出た声は―――。
「んっ…やぁ……」
 ありえねぇー!!俺っ!
 って、思ってんのに―――。
 先輩が胸を弄る事を止めてくれないから……。
「もっ……やっ…」
 何処から出てるんだ!!って、自分で突っ込みたくなる様な声しか出ない―――。
 しかも―――。
「こんな処で感じるのか?屋久?敏感だな」
 先輩は如何にも楽しそうにそう言うと、
「やっ、やぁー……」
 俺のトレーナを捲り上げ、胸の突起に舌を這わしてきた。
 そのザラザラした感触が気持ち悪いのか、気持ち良いのか判らない……。
 只、身体が勝手にビクビク震え、益々下半身に血が集まるのを感じる。
「見ろよ、屋久。真っ赤になって、尖ってるぜ」
「もう……。放して……。帰る…」
「帰る?此処をこんなにして、帰れるのか?」
 そう言うと先輩は俺のスウェットパンツをニットトランクス毎引き摺り下ろす。
「う、うそっ」
 其処にはしっかり自己主張しているものがあり―――。
「もうビショビショだな……」
 そ、そういう事は言わないで欲しい……。
 思わず両足を閉じて隠そうとしたら(いや、隠れるもんじゃないけど…)逆に先輩に左右に開かれて、その間に身体を割り込まれた。
「せ、先輩ぃ……」
 しかも右手で掴まれ、扱かれ、左手は右の突起を弄り、左の突起は舌で嬲られた。
「んっ……やぁ……、も、もう…んっ…」
 クチュクチュという音に合わせて出している、AV女優の様な声が自分の声だなんて信じられない―――。
 だけど……。だけど―――。
「もう、やぁっ!おかしくなっちゃうぅ……。せんぱぁいぃ…」
 その瞬間、俺の身体は引っくり返され、うつ伏せにされ、そして―――。
「な、何…?あっつぅうぅ~…」
 信じられない処に信じられないものが挿れられて……。
「う、うそっ…。抜いて―――…。抜いてよ、それ―――」
「何を?」
 俺の必死の哀願を先輩は平然と返す。
 てぇんめぇ~、ふざけんじゃねぇっ!!
 と言うつもりが、俺の口から出るのは熱い吐息に混じった喘ぎ声みたいなものばかりだ。
 だって、先輩ときたら、俺の中を好き勝手に弄って、引っ掻くんだ―――。指で―――。
「んっ……。あっ…んっ、それ、やぁ……や…め、んんっ」
 身体に力が入らないうえ、この体格差では逃げられない。
 せめてもの反抗の意思として、頭を振って拒絶してるのに、
「そんな可愛い声で強請るなよ。止まらなくなりそうだ」
 ざぁけた事をぬかすんだっ!この男はっ!!
 と、その時、先輩が引っ掻いた場所にビリッと強烈な電気みたいなのが走って、俺の膝がガクガクとした。
「ふ~ん…。此処か?」
 って、何が?
 ところが今度はその場所には一切触れず、浅い処で抜き差しを繰り返すだけだ。
 さっき、一瞬、達きかけたのに―――。
 あと…、もうちょっとで達けるのに―――。
 俺は無意識に腰を揺らし、ベッドのシーツに自分自身を擦り付けていた。
 もう……達く―――その時…。
「はしたないな…。屋久。そんなに腰を揺らすなよ」
 そう言って、俺の腰を持ち上げ、シーツから離してしまう。
 あと―――少しだったのに―――。
「それとも他の奴の前でもそうやって、腰を振るのか?」
 達けない絶望感と、身体中の熱を持て余し、何を言われてるのか判らない。
 只、必死で首を振り、一つの言葉を莫迦みたいに繰り返す。
「達かせてよ。達かせて…。お願い……達かせてぇ…」
 達かせて―――。でないと、変になるぅ~…。
「そんなに達きたいのか?」
 先輩の言葉に俺は必死で首を縦に振る。
「なら、こっち向きな」
 そう言って、今度は仰向きに寝かされた。
「さっきの体勢の方が、身体に負担かけずにすむんだろうが……。屋久の達った顔が見たいしな…」
 先輩の言ってる意味が判らずボォ~ッと顔を見ていれば、
「ホント……参ったな…」
 苦笑い―――って、感じで笑って、俺の頬やおでこ、瞼にキスを落としてくる。
 それが―――なんだか、凄く気持ちいい……。
 益々何にも考えられなくって、只されるがままに放って置けば、耳朶に先輩の低い声が直接落とされる。
「屋久、足開きな」
 それがどんな意味を持って言われたのか、どんな目に遭うのか、今の俺には考える能力すら無い。
 只、先輩が―――。
「いい子だ」
 そう言って頭を撫でてくれるから……。
 褒めて貰える事が嬉しかったから―――。
 音楽一家に産まれて、俺だけ音楽の才能が欠片も無かったから……。
 父さんも母さんも、姉さんも兄さんも、俺の事を愛してくれてるのは判っていたけど……、それでも、誰も褒めてくれなかったから―――。
 皆、何処か俺に遠慮がちだったから―――。
 だから―――。
 嬉しくて、先輩にギュッとしがみ付くと、俺以上に強い力で抱き締め返された。
 ―――気持ちいい……。
 その腕の中は凄く暖かくて、安心した。
 そして―――。



「痛いっ!痛いっ!!それ、無理っ!!」
 俺の中に熱い―――灼熱の棒みたいなものが捩じ込まれる。
「無理ぃーっ、…お願い……や、止めてっ!」
 泣いて―――許しを請うても、先輩は行為を止めてくれず……更に奥に侵入しようとしてくる。
「お願い―――ひっく……も、もう……やぁ…んっ…」
「息を止めるな。屋久。深呼吸をしろ。吸って…吐いて……」
 兎に角楽になりたくて―――楽になれるなら―――と、先輩の言う通り息を吸って……吐いて……。
 その瞬間、身体から力が抜ける―――。
 それを見逃さず、熱い固まりが俺の奥深くを侵していく。
「いっ、やぁあぁ!」
 涙がボロボロ流れたが、格好悪いなんて思いは今の俺には無い。
 只、唯一動かせる頭を左右に振り、先輩の背中に爪をたてる。
「痛いか?」
 訊いてくる先輩の方も何故か苦痛の表情をしている。
「いっ……ひっく…痛い……っ」
「我慢……出来そうに…無いか?」
「ひっく…出来…っく…ない……」
 俺の言葉を聞いた先輩が軽く溜息を吐き、
「仕方無いな…」
 そう言うと、俺の中から出ていこうとした―――。
 と、その時―――。
「だっ、だめぇー…」
 俺は両腕、両足で先輩の首と腰にしがみ付く。
「屋久?」
 だって……。出て行く時の方が気持ち悪いんだ―――。
 まるで内臓の中のものを全て引き摺り出される様な感覚に、必死に先輩にしがみ付き引き止める。
「…やっ…、きもち……わるい…」
 少しだけ困った顔をした先輩は、俺の涙を舌で拭い取ると、
「だったら、少しだけ我慢しろ?なぁ…?屋久……」
 凄く優しく囁いてくる。
 俺はろくに意味も判らず―――只頷くだけだ……。
「いい子だ…」
 只、先輩に褒めて欲しくって……。
 只、先輩に優しく撫でて欲しくって……。
 だけど、優しい…ゆったりした気分だったのは其処までで―――。
「つ、ゃあぁっ…」
 急激に中のもので擦られて、抉られた。
「まっ…んっ……んんっ…まって……あっ…」
 何がなんだか判らなくなるのは怖い……。
 先輩に必死でしがみ付いたら、すぐ間近の先輩のカッコイイ顔がふっと優しい表情になった。
 それが何だか嬉しくて、切なくて……強く抱き付いたら、それ以上に強く抱き締められた。
 その時、先輩のものが、指で弄られた時感じた処を掠める―――。
「そこ―――やぁ、っ…」
 俺が背中を仰け反らせて、逃れ様としても先輩は執拗に其処ばかりを抉ってくる。
 訳の判らない感覚が俺を襲う―――。
「…やぁあ…んっ、あっ……んんっ」
 舌が上手く廻らない―――。
 それなのに先輩は其処を擦る事を止めてくれない。
 それどころか、意地の悪い笑みを浮かべ、
「いいんだよ…。屋久のもちゃんと勃ってる」
 俺のを扱き始めた。
「あぁ…っつ……」
 前と後ろに同時に刺激を受けて、俺は声も出せず、達ってしまった。
「つっ……」
 その直ぐ後に、先輩の熱い飛沫を身体の奥に感じながら、意識を手放してしまう。





「莫迦っ!変態っ!強姦魔っ!!」
 枕にクッション、手にした物を手当たり次第に投げつけても、先輩は全てキャッチして横に置いてしまう。
「うぅぅぅ~~~ぅぅ!!」
 ついに投げる物をなくした俺は布団に潜り込み、先輩に背を向けた。
 部屋は静まり返ってしまった。
 先輩は反省しているのか、それとも俺に物を投げ付けられて怒っているのか、何も言わない。
(何だよ。あんな事しといて、一言くらい謝れつーの!―――そりゃさっ、謝られたって許せる事じゃねぇーけど……。でも―――謝ってくれたら…俺―――)
 何だかヤルだけヤッて、後は放って置かれると、ヤリ友扱いで悲しくなる―――。
 いや、ヤリ友より悪いかも……。だって、あれはお互い納得の上だけど、俺の場合―――。
 もしかしなくても……只の捌け口―――。
 男がこれくらいの事で情けないと思いながら、何だか涙が出てきた……。
 と、その時―――。
「うっわぁ?」
 布団毎抱えられ、先輩の膝の上に抱っこする様に乗せられた。
「悪い―――。泣かすつもりはなかった……」
 そう言って眦にキスされた。
「誰が泣くかよっ!」
 つい、思わずそっぽを向き、強がる。
 でも大の男がこれしきの事で、メソメソするのってカッコ悪過ぎだと思う。
 そっぽを向いてる俺の耳元で、急に先輩がクスクス笑い出した。
「なっ、何笑ってんだよっ!?」
 人を強姦しておいて、普通笑うかぁ~っ!!
「悪い……。可愛いな、屋久…。そういう処が可愛くって堪らない」
 はあ?
「あんた―――眼ぇ悪い?」
 俺、見て可愛いって……如何いう趣味してんだか…。
「普通に両目共1,5だが?」
 んな普通に返されても―――。
 何だか俺は力が抜けてしまった。
 その所為か、さっきまでの怒りも半分以上冷めた感じだ。
「ホント…悪かった―――。嫌いって言われて、思わず切れちまった…」
「…………………………………」
「ずっと……屋久の事が好きだったから―――」
「―――それって…、危な過ぎ!相手が女の子なら大問題だよっ!!」
 そっぽを向いたまま、そう言ってやったら、眼の端に映る先輩の顔はとても困った顔をしていた。
「ずっとって…、何時から?」
 俺の質問に、先輩は俺の髪にキスしながら、
「体育祭―――。屋久、楽しそうに飛び回っていた…」
 ……あ、ああいうのって、つい、むきになっちまうんだ、俺。おまけに秀由もむきになるタイプだから、つい二人で競い合って、藤木達を呆れさせたっけ―――。でも……。
 体育祭って、6月の事だよな……。それからずっと?
 思わず先輩の方を振り返れば、
「それからずっと見てた―――。屋久が楽しそうにしてるとこ……。最初は見てるだけで良かった―――」
 そう言っておでこにキス。
 俺も何、大人しくキスを受けてんだか……。
 でも…、不思議と嫌じゃない。先輩のキス―――。
「お前は―――何て言うのかな……。俺が持てなかったものを全て持ってる気がしたんだ…」
 な、なんか…それって―――。
「オーバー過ぎ……。俺、普通の男じゃん」
「だから、その普通っぽい処が」
 先輩が今までどんな風に生活してきたのか、俺は知らない―――。
「学祭で『美女と野獣』のベル役やっただろ?お前―――」
「あ、あれは…、やったというか―――やらされたんだよっ!」
 うちのクラスの実行委員が“劇”なんてものを引いて来るから……。
 因みに野獣役は瀬尾だったんだけど……。そーいや…藤木の奴、一番前でゲラゲラ笑っていたなぁ……。
 あいつの心情はイマイチ判んねぇ…。
「あれ以来、お前の事を可愛いって言い出す奴が増えて―――」
 はあっ!?
「し、知らないよっ!んな事―――」
 初耳……。いや、それ以前にどーいう物好きが言う訳?んなキショイ事―――。
 先輩の“ちょっと困った顔”を見るのは何度目だろう……。
「それで―――先月、あんな事が起こっちまった―――」
 あ、あれは―――でも……。
「俺が、どれだけ悔しかったか判るか?」
 先輩が顔を顰めながら言う。
「俺が守ってやりたかったのに―――」
 そう言うと俺の頭を引き寄せ、優しく髪を撫でてくれた。
 でも先輩―――。俺べつに、守られたい訳じゃないよ?
「おまけにお前は―――小城に懐いているし……」
 顔を上げて間近で見た先輩の顔は―――やっぱり、少し困った顔をしていて……。もしかしたら、こんな顔させられるのは俺だけなのかな…って、思ったら、少し優越感が湧いて来た。
「俺の事好き?」
「ああ…」
「凄く好き?」
「ああっ!」
「俺は―――よく、判んないや……」
「屋久……」
 やっぱり先輩は困った顔だ―――。
 口に出して言わないけど…。先輩の困った顔って―――可愛いかも……。普段の顔が怖いだけに、余計に―――さっ。
「行き成り言われても判んないよ……。俺、今まで女の子しか好きになった事ないし―――。俺、女の子じゃないから女の子扱いされても困るし―――」
「女の子扱いなんかしてないだろっ!?」
 必死に言ってくる先輩も可愛い―――…。
 って、俺……絆されてる?
「でも、俺―――寂しがりやで甘えたなのもホントなんだ……。皆には内緒だけど…」
 そう言った瞬間、先輩が俺をギュッって、抱き締めてくれた……。
(あっ…)
 やっぱり先輩の腕の中って、暖かくって、凄く―――落ち着く。
「だから……もうちょっと待ってよ―――答え」
「ああ……」
 耳元で囁かれた声は低くて、聞き心地良い。
「そんでもって、その間えっちは無し!」
「屋久?」
 先輩の情けない声と情けない顔―――。
「そんなの当然だろっ?もし、今度無理矢理したら、心の底から嫌いになるからなっ!」
「………………………」
 こんな顔、知ってるのって俺くらいだろうな……。きっと―――。
「……判った……」
 軽く溜息を吐いて、渋々承諾してくれる。
「でもこれくらいはいいだろう?」
 そう言って頬に素早くキスしてくる。
「たぁくぅ~!油断も隙も無いっ!」
 本当は先輩にキスされるのも、抱き締められるのも、それ程嫌じゃない―――。
 どっちかっていうと、好き―――かも……。
 でもそれを言うと、この男は付け上がりそうだからな……。
 暫くは黙っておいた方が良さそうだ―――。
 って、暫くって―――。何か俺…。自分でも知らないうちに嵌ってないか?
 あぁ~あ…。可愛い彼女をつくるのが夢だった筈なのに……。
 自分より10cm以上も背の高い男に大切に抱き締められて、俺はこっそり溜息を吐いた。








「屋久……。よく厭きもせず牛乳ばっかし飲んでられるよね?」
 大辺が呆れた様に言う。
「見とるだけで腹壊しそう……」
 秀由がウンザリした顔で言う。
「でっ?効果あんの?それ―――」
 藤木が俺の持ってる牛乳パックを指差しながら言う。
「うっせぇ!兎に角、今の俺の目標は、目指せ!191,8cmなんだよっ!!」
「又…大きく出たなあ……」
 握り拳を作った俺に藤木が呆れた様に言う。
「ってか、中途半端じゃん。何?その数字―――」
 大辺が不思議そうに訊く。
 いいんだよっ!俺の目標は、二階堂先輩より1mmでも大きくなる事なんだから……。
 男だもん!!好きな人は、守られるより守りたいでしょっ。やっぱ―――。
 まだ、恋愛として好きか如何かは判んないけど……。でも、この先は如何なるか判んない。
 だから―――。もしもの時は、俺が先輩を守るんだ。
 そう思いながら残りの牛乳を流し込んだ時、
「あかん……。ほんまに腹いとうなってきたわ……」
 秀由がお腹を押さえて、前屈みになりながらそう言った。


 ―end―

「その他、全寮制もの書いております。」
...2004/9/3(金) [No.125]
水紀里那
No. Pass
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