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 (切ない 悲恋 三角関係/15禁)
最愛の人の死を乗り越えて





人は最愛の人を亡くした後、またその人と同じように愛する人に、
巡り合う事が出来るのでしょうか?







「おっはよぉございまーすっ。」

横浜にある居酒屋「桜屋」に元気な声が木霊する。
もう店は開いていて、一時間を経過した所だった。

「おお、弘樹。」

「店長、今日金曜だから混んでるねぇ。」

桜屋のバイトの中で一番明るくて元気な高校三年生の弘樹。
白いシャツに腰までの黒いエプロンといったこの店の制服に急いで着替えてきて、
厨房の店長の脇にあるタイムカードを押した。

「ああ、今日は給料日後だからな、余計だよ。ま、頑張ってくれよ。」

「うぃーっす!!」

了解というように右手を額に掲げ、ウィンクをして店内へと出て行った。

「あ、弘樹先輩。」

「緑~!おはよっ。」

小柄な少年を店内で見つけ、頭を撫でる。
緑は高校一年生で小柄でおとなしい少年だ。

「今日、チョー混んでるな。」

「はい。そうですね。」

「っと・・松永は・・っと。おっ!居た居た。」

後輩の緑に「じゃあなっ」と挨拶をして、注文を終えて厨房へと向かおうとしている
長身のスラッとした少年に駆け寄る。

「おはっ。」

「弘樹。」

ニコニコと笑う弘樹に松永は穏やかな笑みをこぼす。
松永は高校三年生。この店で一番の美形で、女性客が彼を見に足を運ぶ事もある。

「今日、お前の家に泊まるジャン。だから新作のゲーム買ってきた。」

「・・まぁた、RPGじゃないだろうなぁ?」

「げっ。何で分かる?で、どうしてそんな嫌そうな顔すんだよ。」

「・・あれは見てる方は退屈なんだよ。」

「えーっ。せっかくの大作なのにぃっ。」

「ったく。ほら、注文だってよ。弘樹。」

「あ、はいはいっ。今行きますーっ!!」





居酒屋のバイトは高校生なので10時で終了となる。
ロッカーで着替えをしている弘樹。
そこに緑が入ってくる。

「お疲れ様です。」

「おう、緑もお疲れさん。」

白い店のシャツを脱ぐと、首にある斑点が緑の目に止まった。
そして緑はそれを見て赤面している。

「ん?」

緑の様子に気づき上半身裸のまま弘樹は緑の顔を覗き込んだ。

「あ、あの・・先輩・・それって・・キスマーク・・・」

「えっ?・・・あ、ああ。あはは。」

弘樹も緑につられたのか頬を赤くした。
聞かなくても相手は誰だか分かる。
松永と弘樹は恋人関係だった。

「あいつ・・つけるなって言ったのに。」

小言をブツブツと呟きながら頬を赤くしたまま弘樹はそそくさと着替えた。

「本当、二人はお似合いですね。」

何処か寂しげに緑は笑いながら言っていた。

「お似合い・・かぁっ?」

「お似合いですよ。」

「うーん・・そうかな。」

明るくて元気で、人懐こくて、細いけれど別にガリガリではない身体。
茶色に染めたサラサラとした髪の毛、長い睫に大きな瞳。
性格も顔も二重丸。
非の打ち所がないというのはこの人の事を言うのだろうなと緑は思っていた。
そして自分にはないものを兼ねそろえていてとても憧れていた。

「弘樹。」

先に着替え終えていた松永がロッカー室の扉に手を掛けながら弘樹を呼ぶ。

「おー今行く。じゃあな、緑。また明日な。」

「はい。弘樹先輩、松永先輩お疲れ様でした。」


二人が出て行ったロッカー室で緑は大きくため息をつく。

分かっていた事だった。僕はあの人に敵うはずなんてないって。
松永先輩の紹介で弘樹先輩がうちのバイトに来た時、
なんとなくそれだけで分かってしまった。
僕の片思いはそこで終わることとなった。
先輩に想いを打ち明ける事もなく・・・・・・・・。

でも、それでもいいと今思っている。

松永先輩は今でも好きだけど、弘樹先輩も大好きだ。
あの二人は本当にとてもお似合いで、僕になんか入る余地なんてないのは分かっている。
好きという気持ちは封印されていないけど、諦めはついているんだ。









横浜某所、松永宅。


「あーっ!!何だよこれ!!続きがわっかんねぇっ」

バイト先で言ったように松永の家にやってきた弘樹は買って来たRPGに夢中になっていた。
それを退屈?そうにソファーに寝転がりながら見ている松永。
もう家に帰ってから三時間もその体制は変わらない。

「なら、止めたらいいだろ。」

「わっ。」

三時間も続いた体制が松永に拠って変化をした。
ソファーからあぐらをかきながらゲームをする弘樹に背後から抱きつく。

「・・まつな・・んっ・・・」

頬を背後へと持ってかされて唇が重なる。
手にしたコントローラーが床へと落ちる音がした。

「発情期・・」

「なんとでも言え。」

「万年発情期。」

「うるさい。」

「なんとでも言えっていったのそっちだろ。」

「ったく・・屁理屈ばかりだな。お前。」

「そんな奴、好きになったお前が悪い。」








「あっ・・んっ・・・。」

弘樹の足の間に入り、その中心に顔を埋めている。

「松永・・あっ・・・あっ・・・・。」

ピチャピチャという音がする度に弘樹の身体が撓る。
胸が跳ね、唇からは吐息にも似た喘ぎ声。

「もう・・早く・・」

「何が?」

「お前が・・欲しい。」

「・・・・・ああ。」

催促に今日は意地悪をすることもなく松永は言われたとおりに身体を繋ぐ。

「あぁっ・・・はぁっ!!」

何回も身体は重ねているというのに圧迫感は変わらず弘樹を覆った。

「大丈夫か?」

「・・ぁ・・あぁ・・平気・・何度聞くんだよ・・。」

「いや・・お前がこの時はいつも辛そうだから。」

「・・はは・・本当、お前って優しいんだな・・・・。」

「お前だからだ・・弘樹・・。」

「知ってるよ。」

唇を重ねながら松永は動き出す。二つの繋がりをもっと深めたくて、
奥へ、最奥へと身体を進める。

「松・・永・・まつながぁ・・・っ」

「弘樹・・ぁ・・はぁ・・・弘樹・・・・。」

愛しい名を呼び合いながら二人の身体は断続的に揺れていた。

「もうっ・・・だ・・・めっ・・・・あああっ!!」

「ああ・・・-----くっ・・・っ。」

愛情を確かめるようにきつく抱き合いながら二人は終演を迎えていた。






果てたけだるい身体を肩を抱いて寄せる。

「弘樹。ここにずっと居ろよ。」

「へ?」

「親も海外出張で当分は帰ってこないし、
 それに・・週に3、4日じゃなく・・一緒にずっと居たい。」

「松永・・・・。」

「・・駄目か?」

「いいよ。全然オッケーだよ。」

ニッコリと笑い横から思いっきり松永に抱きつく。

「俺・・めっちゃ幸せ。」

「・・・・馬鹿。」

照れた松永をよそに弘樹は至福を噛み締めるように「幸せ」と繰り返していた。












「あれ?弘樹先輩まだ来てないんですか?」

「ああ、今日は7時からだってさ。」

バイトに来た緑は休日は5時から自分と同じように出勤している弘樹が来ていないのに、
何処か不安な気持ちになった。

「引越ししてからくるんだ。」

そう会話に入ってきたのは松永だった。

「引越しですか。」

「ああ。」

緑には察しがついていた。「きっと松永先輩の家に引っ越すんだろう」と。

開店となり慌しく時間が過ぎていく。

5時半。

6時。

6時半。




7時。


7時半。

丁度夕食休憩となった松永と緑は休憩室に入る。

「・・弘樹先輩来ませんね。」

「・・ああ・・さっきから暇みて電話してるんだが・・」

「出ないんですか?」

「・・・・・。」

心配そうな面持ちな松永。
バイトに遅刻してきた時など一度もなかった弘樹。
そして電話に出ない。
誰しもがこの状況に良くない事を想像してしまうだろう。

「弘樹・・っ。」

再び携帯を取り、電話をする。
眉をしかめ、「出てくれよ。」と何度も呟いていた。

その時。

「松永っ!!!」

店長が息を切らせて休憩室の扉を乱暴に開けた。


「店長。」

その必死な様子にただ事じゃないと察したのか松永は席を立つ。

「・・弘樹が・・・」

「!!・・・弘樹が、弘樹がどうしたんです!?」

俯いた店長の肩を押さえ、声を大きくする。

「・・交通事故にあったそうだ・・。」

「なっ!!弘樹はっ!弘樹は無事なんですか!?病院は何処ですか!?」

店長から病院を聞くと着替えをする事も忘れ松永は店を飛び出す。

「松永先輩!!僕も、僕も行きますっ!!」

「ああっ!」

タクシーを捕まえて、二人は弘樹が居る病院へと急いだ。


「弘樹・・弘樹・・・弘樹・・・・。」

病院へ行くタクシーの中、両手を握り締め、顔を下げた松永は
何度も何度も名前を呼んでいた。身体を震えさせながら。
緑はそれをただ見つめる事しか出来なかった。
何を言ったらいいのか分からないでいた。






病院へとたどり着くと受付へと走る。
弘樹の病室を聞き、辿りつくと・・・・・・。

「特別治療室・・・。」

松永と緑の目に止まった文字。

「弘樹っ・・・。」

扉を開いた先には・・・・・・・・・・



真っ白な布を顔に医師が掛けている所だった・・・・。


「やめろぉぉっ!!!!」

その医師をはじき飛ばし、松永は弘樹へと駆け寄った。


「弘樹・・弘樹っ・・・目ぇ覚ませっ。ひろ・・きっ・・」

頬を何度も叩いて起こそうとしている。
目から大粒の涙を流し、必死に起こそうとしていた。

「・・・・。」

医師も看護婦も・・そして緑も何も言葉も行動も出来ずにいた。
松永の弘樹への痛いほどの愛と、悲しみが病室内を包み込んでいた・・・。

「・・なんで・・なんで・・・・・・。まるで寝ているみたいなのに・・・。
 まだこんなに温かいのに・・・弘樹・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」






弘樹の死因は内臓破裂だった。
鍵を交差点の真ん中に落としてしまったのを拾おうとして戻った所に、
わき見運転をしていた運転手が突っ込んだ。
即死に近い状態・・・だったという。



遺品として貰った「合鍵」を見つめ

「こんなの・・拾わなくても・・またすぐ作ってやったのに・・・。」









2日後。

弘樹の葬儀が行われた。

「・・・・弘樹・・・・。」

火葬場の煙を見つめながら松永は瞳を閉じる。




“松永、なぁ俺、幸せだよ。”

“言うなって。”

“あっ、また恥ずかしがってる!”

“うるさいっ。”

“何だよぉー。『幸せ』って言ってよ。一回ぐらいさ。”

“言うか・・馬鹿。”




「幸せ・・・だったよ・・・弘樹・・・・・。」







「松永先輩。」

空を見上げる松永に声をかけたのは緑だった。

「お前も疲れただろ。向こうの休憩室で休んだほうがいい。」

「・・・・・いえ・・ここに。」

「そうか・・・。」

緑にとっても弘樹の死はショックだった。
それ以上に今のやつれきった松永が心配だった。
松永が弘樹の事をどんなに愛していたかは、
想いを寄せて見ていた緑は分かっていた。

「・・先輩・・大丈夫ですか・・?」

「ん・・ああ。平気だよ。」

気丈に振舞う姿が痛々しい。


自分はこの人の支えにはなれないのだろうか・・。








-1年後-

「松永先輩、また海見てたんですか?」

「ああ。」

松永は横浜を離れ、沖縄の大学へと進学した。
そして・・

「夕食出来てますよ。」

「ん、もう少ししたら行くよ。」

緑もまた沖縄の高校へと編入した。


二人は今共に暮らしている。


「じゃあ、僕もちょっとだけ・・。」

松永と同じように砂浜に腰を着け、足を抱えながら座る。

「なぁ・・緑。」

「はい。」

「俺はあいつよりも愛せる人になんかもうめぐり会えないと思う。」

「・・はい。」

「あいつ以外誰も・・・。それでも・・いいのか?」

「松永先輩・・・・。」

緑の気持ちは共に暮らしはじめたこの一年間で分かっていた。
そして、自分がそれに答えられないという気持ちも。
弘樹の事を忘れられないという気持ちも。

「僕は・・弘樹先輩が大好きでした。弘樹先輩と居る松永先輩が大好きでした。
 僕が弘樹先輩のように松永先輩に思われない事はわかってます。
 それでも・・・先輩と一緒に居たい。・・先輩の支えになりたいと思ってます。」

言えなかった告白だった。
決して言えるはずもない告白(言葉)だと思っていた。

「お前はいい奴だな・・・。」

頭をクシャクシャと撫でながら松永は笑う。

弘樹が可愛がっていた後輩。ボロボロだった俺の傍にずっと居てくれた少年。
気持ちに答えられないと思っていた・・だけど・・・

「あいつを忘れる事は出来ないけど・・お前を好きになりたい・・・・。」

頬に流れている涙を温めるように、そっと触れる。
身体を傾けて、口付けをした。

「弘樹先輩・・・僕でいいですか・・?」

口付けを離し、額をつけあう最中、緑が問うた。

「緑・・・・・。」

目を閉じる緑。松永もそれに続いて瞳を閉じる。




"お前なら、いいよ。

松永を幸せにしてやってくれよな。”




そう、幸せそうに笑う弘樹が

二人の瞼の裏に映し出されていた・・・・・・・・・・・・・・。





「主従小説ではないの初書きです!好評頂けたらこんな短編もまた書きたいです。」
...2004/7/10(土) [No.115]
咲良千砂
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