「気持ちいい?高野?」
「あ、そこ。いい」
「ここ?」
「そこ…そこをもっと……」
「ねえ、もっと声、上げていいよ。誰も来ないし。聞こえないから」
「あっ……あ…いい……」
同じ男である俺自身を躊躇うことなく口いっぱいに含み、吸い込み 舌で何度も舐め回してくる ピチャピチャと濡れた音が響きわたり 頭の中は快感だらけで もっと、もっと気持ち良くなりたいと何度も腰をくねらせて 貪り続ける坂崎に淫らな要求をする。
「んあっ…もう…出る…い…いく……いきそう」
「出していいよ。いっぱい。呑んであげるから」
「あ………っく………はあ、はあ……っ」
「…んっ」
坂崎の手や口によって何度も絶頂を感じた俺は しばらく頭の中は、からっぽで、ただ荒い呼吸だけを繰り返していた。 目は閉じ、だらしなく股を開いたままでいる 汚れた俺の下半身を丁寧に後始末をしている坂崎など気にとめることなく 当然のごとく、そのままでいたのだ。
そんな愚かな行為に耽っていた自分には 物音一つ聞き分けられる能力すら持ち合わせていなかった
誰かが……坂崎と俺以外に同じ場所にいたなど。
まさか…藤川が
察知できるわけがなかった。
「二人とも派手に脱ぎちらかしてるね」
突然の声とともに部屋の中の電光の明かりがポツポツと付く。 俺は反射的に起き上がり、声の主を見た
「藤川!!」
自分が素っ裸だということも忘れ 何も隠さないまま 目の前にいる男を凝視する。
「この部屋の……鍵、ちゃんと閉めておいてね」
男は、そんな俺と坂崎の驚きのあまり動けない様子など 気にも止めず、 机の上へと手に持っていた懐中電灯を置き 何事もなかったかのような態度で静かに部屋を去った。
しばらく言葉を失った。 落ち着くにもあまりに衝撃的で だからと言って身体のだるさも手伝って 部屋を飛び出していくことも出来ず。
「……見られたんだよな。あいつに」
それだけが言えた。
「……みたいだ」
「どうしよう。何で、よりにもよって藤川の奴なんだよ。 あいつ、俺のルームメイトなんだぜ」
「……知ってるよ」
坂崎を見ると、無表情だった。 手も震えていない。
「お前っ!!よくそんな平気でいられるよな!!」
坂崎の冷静な態度に苛つきを覚えた。 何とかこの状況を飲み込もうと必死で
「ごめん」
坂崎は頭を垂れて俺に詫びる 意味がわからない。
「謝ってすむことかよ!!」
「ごめん」
「お前が、ここには誰も来ないっていうから、それで俺は……ックショウ!!」
俺は坂崎のうろたえない態度に どうしようもない怒りが込み上げ 行き場のない怒りを床へと何度も手を打ち付けた
「やめて高野っ!!そんなに叩いたら怪我をする」
「うるせえんだよ!!」
打ち付け続ける手を制する 坂崎の頬をはずみではあるが、乱暴に殴ってしまった
「!!」
「っ……ごめん……」
殴られてみるみるうちに赤くなっていく頬を抑えながら 坂崎はまた俺に謝る なのに俺は
「お前のせいだぞ。俺は……もう終わりにするって言ったのに 何度もやりやがったから………」
大人しく言い返さない坂崎をいいことに 全ての責任、怒りを坂崎へぶつける
「……………」
「お前はホモって言われても平気かもしんねえけど。俺はホモじゃないんだから遊びなんだから………そうだよ。こんな事知れたらどうするんだよ。藤川の奴が言いふらしたりして、笑いもんにされたり、弱味握られたりして、どうしてくれんだよ!!」
ひどい言い方だった 己の正当化、そればかり考えていた。 自分自身にも非があるのを一切認めたくないばかりに。
決して、無理矢理ではなかったのだから……。
★
坂崎 達哉 そいつは俺が1年の時のルームメイトだった。
そして…ルームメイトの間柄、不毛な処理を互いにしあう仲であった。
だがその坂崎とも学年が上がり、寮部屋が変わって あっけなくその不毛な関係には幕を閉じた。
部屋が同室であったが所以。 目的は快楽だけ。そうして身体を許してきた相手。 友達でもなんでもない。 付き合う友達ならば他にいた。
おまけにクラスも違えば、会話を交わすことはない
必要もない。 そう。必要がなかったのだ。 きっと自然消滅のような形になるだろうと 予想はしていたから。 何も言わずとも 何も思わずとも。
だから俺は……坂崎の存在や 自分達の関係に 日が経つにつれ薄らいでいくのを心のどこかで安堵していたに違いない
全ては何ごともなかったように 時は過ぎ、そして消え去っていくのだと。
だが、時々坂崎が遠くから俺を見る視線には気付いていた。 校舎の中にいる時、校庭で体育の授業を受けている時、 廊下ですれ違った時 何故か、それを気持ち悪いとは思わなかったのだ。 自分でも恐ろしいことに『優越感』さえ感じていた。
そして………
偶然ではあった。 その時たまたま 放課後の誰もいないだろう図書館で 坂崎が一人でいたのを見かけたのだ。 俺は……自然と奴に歩み寄り、部屋が別れてから一言も 話し掛けも許さなかった奴に 自分でも驚くぐらいの親し気な声を出して……
「よ、久しぶり」
………奴は、坂崎は 真ん丸に目を見開き、顔面の筋肉が石のごとく固まり、 まるでおかしな彫像のような、そんな顔を見せた。 だがすぐさま頬をみるみる赤くさせ、 最大限の照れを隠すように、
「久しぶり」とポツリと答えたのだった。
最初のうちは 何気ない互いの新しいクラスメートやルームメイトの話だったと思う。 だが、話している内、だんだんと互いの中で不自然に片付けられていた 感情が出てくる。
坂崎はそれを意識するのか、時折言葉を探るような そんな間を持たせた。
俺の脳裏にはジリジリと蘇る記憶 坂崎の欲情に濡れた目、息、熱さが
だが目の前の奴は平然を勤めたような態度で俺の話しを笑いながら 聞いている。
(おもしろくない………な)
それはたぶん 俺の何気ない一言で始まった。
「坂崎ってもてるし。新しい相手、もう見つけただろ?」
確かに坂崎はもてる。 男の俺から見ても美形だし、頭もいい。運動だってできる。 周囲から冷やかされたところで 性格は卑屈じゃないから嫌味なく笑顔でサラっと交わす。 何かと話し掛けて接点を見つけて、 友達になりたがる奴だって多かった。 例えホモだろうと噂が立ったところで周囲からはみ出し者にされないだろう。 あわよくばそういう関係に陥っても…と危ない妄想を考えてる奴はゴロゴロいたのだから。
それなのに何故自分だったのか…… けどそんなの俺にとってはどうでもいいことだ。 偶然でしかないのだから
「そんな人いないよ」
さっきまでの嬉しそうな表情を一変させ、 やけに傷ついた暗い面持ちで俯き、ボソリと呟いた。 らしくないと言えばそうなるだろう。 学年でも話題の人物がこの気弱な態度。 冗談じゃないよと鼻であしらうことすら出来ないのだ。
だが俺にとっては、そんな坂崎の態度に的を得たように 更なる追撃を試みる
「よく言うよ。知ってるぜ。お前が数人の先輩らと色々やってたの」
「………あれはっ」
「あれは向こうから誘われたから?」
「そうだよ」
ニヤリという笑みが口元にへばりついて離れない。 坂崎を虐めたい、虐めてやりたい。そればかりだった。
「けど、お前の場合早く見つけないと我慢できないんじゃないの?」
「!!」
「男が好きだもんな」
「………そうだよ」
本当に計算通りの反応を返してくる。 笑いが止まらない。
坂崎は無表情で答えてはいるが、見ると 手は、指先は震えていた。 いつだっただろう。坂崎が「自分は男の身体にしか欲情出来ない」と 告白してきたのは、あの時の奴もかすかに震えていた。
「ルームメイトの奴、お前のタイプじゃないんだ」
「………………」
「ハハハ。そうだ。入ったばかりの右も左もわからない新入生なんてどうだ?ちょっと呼び出してコチョコチョしてやれば やらせてくれるんじゃねえか?お得意のテクニックで」
やけに大きな笑い声は2人しかいないこの広い空間ではよく響く。 坂崎の胸にそろそろ止めをさす時がきた だが奴は刺される前に
「そういうことは……」
「何だよ」
少しの間が流れる
「君の口から聞きたくない」
俯いていた顔を上げ、悲しみと怒りが入り交じった眼差しでこちらをジっと見つめてくる。 前よりも背が伸びたのか、座っているにも関わらず目線だけは俺を見下ろす形となっている。 その態度がよけい、俺の心を卑劣で卑屈にさせるとも知らずに。
「それ、今さら言われてもな。 俺達だってずっと快感楽しむだけの付き合いしてただろ。…説得力ないぜ」
坂崎の顔めがけて、フーッとタバコの煙りを掛けるみたいに息を吹き掛ける。 当然、目の前にいる奴は眉間に皺を寄せて不快感を露にした。 そんな奴の顔をさらに嘲笑うような目で見てやる そして
「それとも、まだ…俺としたかったりする?」
言ったと同時、 坂崎の股間へと手を伸ばしてやった
「!!」
まさか俺から触ってくるなど、思ってもみなかっただろう。 ビクリと大きく身体を縦に動かし 冷静な仮面は瞬く間に総崩れとなって剥がれ落ちる。 やはり、ビンゴだった。
「ずっとさ、俺のこと未練がましく見てたもんな。わかってたんだぜ?」
校舎の中で、校庭で、廊下で 坂崎の視線はずっとあった。間違い無く
「っ……たかの……」
苦しそうな声を上げ、熱の篭った目でこちらを見た。 怯えてるようにも見えた。 だが、坂崎は動かない。されるがままだ。 振り払えばいいものの、こいつは馬鹿だ。
「前は……いつも、こういうことしてやったもんな」
さらに優しく優しく何度も擦ってやる。 次第に坂崎自身が堅くなり始めてきた 我慢してるのだろうか。口から漏れる息も荒くなる。
「可哀想だなあ。これぐらいですぐ反応してさ。よっぽど溜まってた訳?そりゃあ新しい相手、見つけられないんじゃ当然だよな。」
「ち、ちがう」
「何がだよ?」
ギュッと股間を強く鷲掴みにしてやると ぐっというくぐもった呻きが洩れた。
「俺は……誰でもいいとかそんなの」
「綺麗事言うなよ」
「違う!!」
突然、坂崎の悲嘆の叫びが部屋中に響き渡る
「あほらし」
俺は言い捨てるように、 坂崎の熱く堅くなった物を放し、ついでに席を立つ
「じゃあな、後は自分で始末しとけよ」
嫌味たっぷりの笑みでもって言ってやった。
「……高野っ」
縋るような目。 今度は俺が見下ろす番だ。 泣きそうな顔で俺を見上げてくる坂崎を
「そうだな。お願いするなら、してやってもいいぜ」
優しく頬を撫で上げて
「…………高野」
「ただし、これっきりな」
俺は奴の整えられた前髪を痛むぐらいに掴み こちらへ引き寄せる
「どうなんだよ、え?」
坂崎はもの凄い力で俺の胴体にしがみつき 胸元へ頬を何度も押し付け、 そして言った
「高野、君としたいんだ……感じたい……お願いだ」
「わかった」
坂崎はもう1度だけでいいから、俺としたいと願ってきた。 俺はこれが狙いだった。 何も知らなかったような顔して過ごす奴が気に食わなかったのだ。 俺だけにしかわからない、坂崎の未練たらしい視線 誰も知らない。 奴の暗く汚い淫欲の部分を。
素直に「したい」と平伏せるように俺に願えばいいものを。 坂崎の陰媚で欲情の固まりを 閉ざしていた篭城を崩した俺は胸が掬われる気持ちとなった。
ただ、やはり何度も言っていたが 挿入だけは絶対に嫌だと言ってやった。 俺は互いの溜まったものを出すという処理だけで それ以外の行為も否定していた。 もちろん抱くことのない恋愛感情も含めて。 ただ肉体に快楽を、快感を感じればいい。
それが俺が決めた絶対のルールだった
しばらく抱き締めて放さなかった坂崎だったが。 突然、図書館ではなく、部屋を変えたいと 申し出たので、 しぶしぶながらといった感じで承諾してやると、
校舎とは反対にある誰も寄り付かない 旧校舎まで歩かされ、どこに持っていたのか鍵を使い扉を開けて そのうちの一つの教室の前へ立つと中に入るよう促された。
どうしてこんなところに来るんだ?
天井にある窓から夕焼けの陽射しを招き、 埃っぽい教室の中を赤く染め上げていた。 俺は散乱している机の上へと座り
おい、聞いてるのかよと確かめたが
高野から答えは返ってくることなく まるで愛情に飢えていた飼い犬のように 甘える目つきで自分へ抱き着き、服を脱がしながら むしゃぶりついてくる余裕のない態度に 呆気に取られてしまうぐらいだったが すぐに、坂崎に対する優越感は上がるばかり
まあ、いいか 遊ぶのに丁度いいと
そう。
坂崎に快楽を促したのも自分なのだ。 あのまま話し掛けず何もなかったように、お互い 過ごしていればよかったのだから。
☆★
「ごめん、責任は取るよ」
俺に殴られた頬を赤くしながら やけに真面目な顔をして言う坂崎に
「はあ!?馬鹿言うな。お前なんかに何ができるっていうんだよ」
「けれど」
「お前……まさか俺を嵌めようとか考えてるんじゃないだろうな」
俺をホモ呼ばわりさせるためにここへ連れ込み そして藤川に見させた。そういうことなのか
「違うよ!!そんなこと考えてもない!!偶然だよ。藤川がここへ来たのは」
こちらへ詰め寄って 両肩を掴み、激しく否定する坂崎の態度に嘘偽りはなかった
「信じられないな。どう考えても都合良すぎるもの」
「嘘じゃないよ。だってあいつは」
「何だよ。あいつはって」
言い淀んでしまった坂崎 だがそれ以上答える様子はなかった。 いつまでたっても埒のあかない状態で 坂崎の言葉を待ってる訳にもいかず、
藤川だけじゃなく 他の奴らがやって来るかもしれないこの状況で 俺は急いで服を身につけこの旧校舎から出て行くことが優先だと考えた。
出ていく際 坂崎は何か言おうとしたが 俺はあえて無視して後にした。
★
「坂崎とのあれ、本気じゃねえからさ」
部屋へ戻り 今、この世に存在してほしくない相手を 確認した瞬間。 見られた事を隠すよりも開き直った方がいいと そういう結論に達した。
妙な噂を立てられる前に こいつをなんとか丸めこませばいいと。
だがネックなのは藤川と俺は ルームメイトにも関わらず 普段からあまり会話をしていなかったという事だった。
第一印象からでもどちらかと言えば苦手なタイプで 一緒に過ごしていても いつも何を考えてるのかわからないと印象しか受けない。
あまり目立った行動も取らないし だからと言ってクラスで浮く存在でもない
なのに 俺はこいつの事が引っ掛かっていた。
「俺はあいつと違ってホモじゃねえから」
藤川はベットの上に座り、何も言わず雑誌を読んでいた。
「男ばっかのむさ苦しい寮生活での気晴らしっていうか 遊び程度のもんで。利害関係っつーかさ。 最初、あいつが言ってきたんだよ。しないかって誘われたんだ。 そん時、たまたま…中学ん時に付き合ってた彼女にメールで振られてさ、頭にきてたっていうか、 やけっていうか………あいつは 付き合ってた先輩に邪険にされたとかで……」
俺は、頭に浮かぶ限りの言葉をとにかくまくしたてるように言った。 だが藤川は雑誌へと視線を落としたままでこちらを 向こうともしない
「それでたまに溜まってきたらお互いにシコシコってやつだよ。 尻に突っ込むとかそういうのはナシ。単なるマスベ相手っつーわけ。 それに皆言わないけど ルームメイト同士で一度くらい マスベるのは変わったことでもないらしいぜ」
一通り言い終えてはみたが。 藤川は、チラリともこちらを見ようともしない。 ただ
「そうなんだ」
たったそれだけだった。 藤川から出た言葉は 他に言うことないのか!?とこっちが聞き返したくなるほどに。 あんな現場を見たのに
それから、俺はそれ以上言う気力も失せ、 何もなかったように過ごした。
藤川もそうだった。 次の日もまた次の日も何も言って来なかった。 当然、噂も立たない。
都合が良いはずだ。けれど 俺にとっては何も反応を示さない ルームメイトに恐れさえ抱くようになってしまったのだ。
だが、ある日
「坂崎と、この頃会わないんだね」
「…え?」
夕食も終わり。娯楽室で、テレビを見終わった後、 遅くに部屋へ帰ってきた俺に対して 藤川が初めて、坂崎のことを口にした。
「……いきなりなんだよ」
不意打ちの問いかけに、俺は言葉が出ない。
「俺のことなら気にしなくてもいいよ」
「な、何だよ」
「何って。俺にばれるのを気にして、2人共付き合わないんだろう」
藤川の的の外れた解釈に……前の俺の言い訳すら聞いて いなかったのかと、
「馬鹿言うなよ!!。俺は坂崎と付き合う訳ないだろ!!! それに前にも言ったけど、あれはルームメイトだったから、 ついでにマスベの処理をしてただけの仲であって ……だから、その、俺達は別に…………」
前とは違い、藤川の黒い瞳がジッと俺へ注がれた。
「じゃあ、何でもないの?」 「当たり前だろ!何でもないに決まってるだろ!!」
藤川はふうんと理解したのか、していないのか 読み取れない呟きをし
だが次の瞬間、予想をはるかに越える問いかけが藤川から言い渡される。
「なら、俺もルームメイトだし、利害というなら高野とやっていいわけ?」
「え?」
「そうなるんだよね」
悪びれた笑みもなく
「そりゃあ……そうだけど。ってお前、俺なんかとやりたい訳?」
乾いた笑いが張り付く
(こいつ今、何て言った?)
「坂崎とだってそれでやったんだろ?高野がいいんなら。……俺だってやってもいいと思ってる」
(マジかよ!?)
「ふ、ふーん。優等生もマスベに興味あんだ」
思ってもみなかった展開 計画とは正反対で まさかこいつが興味を持つとは想像つかなかった。
だって、藤川だし…ある訳ないと
俺だって人が人に抱く好意の善し悪しぐらいわかる。 坂崎の時も、不毛な関係になる前だって 何となく俺が我が侭言っても奴は言う事を聞いてくれたりしたし 反対に俺を甘やかすぐらいの好意を俺に見せていたのだ。 もっと頼ってほしいとさえ言ってきた。
だが藤川は、ルームメイトになってからでも何も言わない。 だから俺も何も言わなかった。 極稀に笑ってたりするぐらいで それも何を考えて見て笑ってるのかわからないし、 とにかく何を考えてるのかわからなかった。
「別に優等生じゃないよ。それに僕だってオスだからね」
(オスって……何だよ)
藤川の発言に妙なものを感じた。 口元はいつものあの意深な笑みがあり この笑い方だ……
「じゃあ、する?」
「って今…からか?」
「うん」
「藤川は……前の奴ともしたりしてたのか?」
「ううん。してない」
「そうなんだ」
適当に返して 適当に逃れたい。 やっぱり嘘だ冗談だよと言われたい。 だが、その願いは通じず 藤川が俺の横へ来て、静かに腰を下ろした。 腕には藤川の体温を感じ。 途端、妙な焦りとざわめきを覚えた。
藤川は俯いていた俺を覗き込むような仕種で 脇腹あたりから手を入れて、シャツの上からそっと胸を触る
「ドキドキしてる」
耳もとにクスリと笑う息がかかる。
「ほ……本当にするのか!?」
何故か小声で反論してしまった自分の動揺さ加減 何より藤川のあまりの余裕さが憎らしい。 自分の方が経験が豊富なのに、 だが、ふと坂崎と自分がしていた行為を思い出してみると 大半が向こうの手腕で気持ち良くなっていたに近い。 自分は結局何もしていなかったのだ。
少しでも自分がリードするという自信が消え初めていく。 いや、待て。もともとこういう予定はなかったじゃないか。
「どうして?慣れてるんじゃないの?」
反応を見せない俺のシャツのボタンを遠慮もなしに外していく。
間近にある藤川の顔は 眼鏡を外すと思っていたよりもずっと綺麗だった。 坂崎も美形だったが……
「慣れ…ってあいつとは慣れただけのことだよ」
回数なんか数えていない 甘い関係でもなかったし ただ性欲という快楽衝動を発散していただけ 意識したのなど……最初と2回めだけだった。 後は……
「坂崎以外とはしたの?」
これには顔から火が出そうな勢いで 藤川に言い返す
「する訳ねえだろう!!俺はホモじゃないんだから あいつは結構、先輩とか誘われたら断りなしの手当たり次第だったらしいけど。それに俺、もう関係ねえし。あいつとは」
「……あいつとは?」
「ん」
生暖かい肉の感触を唇に感じ
「やめろよ!!」
キスをされるとは思わなかった。 坂崎ともキスはしなかったのだ。
「どうして?」
「キスはするなよ……」
「以外とウブなんだね」
困惑しいてる俺の顔をおもしろがるように 目が笑っている。
「……どういう意味だよそれ」
低い声で睨みを利かせ、奴を威嚇する。 この流されるような空気がとてつもなく嫌だったから。 すると俺の反応など気にも止めない様子でサラリととんでもないことを言った
「あんなに大きく脚を開いてヨガってたのに」
カアアアアアっと沸き上がる怒り、 あんな現場を見られていたという死ぬ程恥ずかしい醜態を晒したと 消し去りたい羞恥心がまた蘇る。
「お前、俺を馬鹿にするのか!!」
「してどうするの?今から君に脚を開いて貰う僕が。 ただ可愛いと思っただけだよ」
(こいつ………やっぱり嫌いだ)
「言っておくがな、俺は尻に突っ込むのはしねえんだぞ」
ムードもへったくれもない言い方で やってみろと言わんばかりに藤川を牽制する。
「ふーん」
「聞いてるのか?」
「何でしないの?もしかしたらすっごく気持ちいいかもしれないよ」
言うや否や、俺をそのまま床へ押し倒した。 藤川の睫が触れるほどの距離に顔が近付く
「わけねえだろう。それに俺はホモじゃ」
声が掠れた。 のしかかる藤川の重みが居心地悪くて、 胸を押して抵抗するが、全くと言っていいほど利き目がない。 どうやら体力では負けるようだ。 細いと思っていた身体も以外と筋肉がついてるようで
「ホモじゃなくても出来るよ……僕だってホモじゃないもの」
藤川の息が俺の頬を掠める それだけでゾクゾクしてしまう
「あっ、そう。だ、だからどうだって言うんだよ」
「だからしてみたらいいじゃないか。一度」
後ろに手を回し 尻の肉を掴む 途端、ゾワっと背筋に悪寒が走り過ぎた
「嫌だって言ってるだろう!!」
大声を張り上げて、身を捩って、藤川の掴まれた手から逃れようとする だが、藤川は動いた隙に両足の股の間へ自分の膝を入れ ガッチリと固定してきて
「怖いの?お尻に入れられてよがって気持ちよくなってホモになるのが」
「違う!!気持ち悪いだけだ」
「そんなの互いのチン●をしゃぶってる奴が言うことじゃないよ」
こいつどこから見てたんだよ それにいきなりチン……なんて言うなよ。
「とにかく……俺は」
…………自分の愚かさに今、瞬間気付いてしまった。 坂崎と藤川の違いに
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