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 (リーマン、社内プレイ、コメディ/18禁)
仕事の合間に


 今の会社に入社して三年目。

腕がよければそろそろ引き抜きがあったりする頃だ。

そんな話がこない事に自分の腕の至らなさを痛感する事もあれば、ただ静かに日常をおくれる事に感謝する事もあった。

「綾瀬君」

声をかけてきたのは自分の上司であり、恋人の坂崎昇。

さりげない一言にも至極普通に対処する自分は、少しは大人になったかな…と思う。

「タバ休ですか、坂崎常務」

仕事場での会話の始まりはいつもお互い営業口調になりがちだ。

「仕事場では殆どのものが嫌煙するんでね。こうして一人寂しく吸ってるんだ」

やさぐれて見せる彼がおかしくて、フッと表情が緩む。

「最近増えましたからね」

海外との取引が多くなるにつれてかはたまた最近の禁煙ブームのせいか、社内で喫煙する者の数は激減した。

その為オフィス内はじつに清々しい空気が流れている。

アロマテラピー効果を狙った香り付きの造花を置くようになったせいだろうか?

煙草の匂いの方が珍しいくらいだ。

そして喫煙スペースに来る人間は極端に少ない。

それをイイ事に時折坂崎は自分を誘ってくるのだ。

「雅人」

喫煙スペースに入った途端、腕を引かれ体制を崩しソファーに膝をつく。

「!坂崎さっ…」

「こら」

「あ…」

諌めたはずの自分が今度は彼に注意される。

彼の言いたいことなどわかっているのだが、恥らいがあるのは今でも変わらない。

「の…昇さん…」

「いい子だ…」

家ならともかくどうして二人っきりになった瞬間にこの人は名前で呼ばせたがるのだろう。

社内でばれたらそれこそ居辛くなるってのに…

「職場でちちくりあってるなんざ何処の社でもあることだろうが」

「!?なっ…ちち…って、ちょっと!」

普段の彼らしからぬ発言に、綾瀬は驚きを隠せない。

「なんだ?そんなにおかしな事言ったか?」

十分おかしな発言をしていると思うが、それはあえて言わないでおこう。

「あの、でも、昇さん…いつ人がくるかわからないのに……」

「昼過ぎに来た掃除のおばさん以外はここに人が来る事はない。キチンと調べはつけてある」

「はぁ!?」

坂崎はにんまりと微笑み、綾瀬を自分の隣に座らせる。

「前に資料室でやった時は後で散々わめいただろう?だからこうして人がこない場所を探したんだよ。それがココってわけだ。

幸いこのフロアで喫煙者は俺だけだからな。他に来る奴はいない。もっとも、俺と同じ目的の奴がくるかもしれないことは考えてるがな」

「あ、貴方って人はっ……」

呆れて頭を抱える綾瀬に、坂崎は悪戯っぽく囁いた。

「そんな俺を好きになったお前が悪い」

そりゃそうだ。

好きになってしまったものはどうしようもないのだから。

「雅人…したい、ダメか?」

ダメかと聞かれても、こんな話をしたあとでノーと言ったら後がしつこいのを既に知っている為、ここは否応ナシに承諾するしかなかった。

「…まったく、飽きないですね。昇さん…」

「こんなおいしいものが目の前にあるのに、飽きる奴なんざ馬鹿だ」

最大級の世辞をくれるこの恋人に気恥ずかしさがあると同時に、もっと愛しいと思って彼の要求に応えるのだった。

「どうする?上?下?昇さんが決めていいよ…」

「後ろからの方が楽だろう」

「え…」

実はと言うとあまり獣の体勢は好きじゃないんだけど…

しかしそれに抗議する間もなく背後から抱き込まれる。

「あっ…」

ベルトを緩めスラックスを下げ、備えつけのソファーに四つん這いにさせられる。このときが一番恥ずかしいからこの体位は嫌いなんだ。

「いい格好だな」

させてるのはアンタでしょうがっ!!

「…昇さん…あんまし卑猥なこと言うなら…ッ」

じと目で睨みあげると、彼は余裕の笑みで腰に手をかけてくる。

散々彼に慣らされた躰はそれだけでぴくりと反応し、己のペニスに少し意思が宿る。

「言うなら…なんだ?」

「あっ…ぁ…やっ……ず、る…い」

「何がずるい、気持ちよくしてやってるだろう?」

「だって…」

「だって?」

すでに覆いかぶさる形となっている坂崎は綾瀬の耳元で甘く問う。

その声にぞくぞくと背筋が震える。つい声が出そうになるがそれを我慢して彼は坂崎の問いに答えた。

「……俺ばっかイかされまくってんだもん…ちょっと悔しい…昇さんなんて殆どシラフのくせに…」

「箍はずしてもいいんなら…喜んで外すけどな。その間何するかわからんぞ」

「ケダモノ」

「かもしれん」

そのうち二人でケダモノになろう、と囁きながら坂崎は腰を進める。

「馬っ鹿……あっ…!」

ぐぐっと入り口が押し広げられ、異物感が快感へと変わるその刹那、信じられないことが起こった。

綾瀬の背広から聞こえるコール音。

マナーモードにしていなかったのかと呆れるよりも行為を中断されたことに、坂崎は顔も見えぬ電話主へ怒りを覚えた。

出ないわけには当然行かないわけで、スラックスと下着を引き上げ、コール音三回目にしてサッと電話口に立つ綾瀬の切り替わりの良さにも

感心するところである。立ち上がり窓際に立ち、電話主と会話している間に坂崎は一先ず身なりを整えた。

「もしもし…はい、えぇ、はい、大丈夫です。今日の四時にロビーですね、わかりました」

電話を切る頃にはすっかり欲情の色も落ち着いて、普段の顔となった綾瀬は、そそくさと背広を着始める。

それに嫌な予感がした坂崎は、彼に電話相手を訊ねた。

「今の電話ですか?同じ営業の滝下さんですよ。今度の三嶋グループのレセプションの会場が決まったから見に来いって」

「そうか、でもまだ時間はかなりあるだろう?」

「あと三時間ですから、それまでにパターン作ったセッティングの図面をチェックしておかないと」

「…そうだな…」

仕事とはいえいくらなんでもこの状況はないだろうと思いつつも、仕事に私情をはさむ事などできない。

お先に失礼しますと、すっかり仕事モードに入った綾瀬は足早にオフィスへ戻っていった。

そして取り残された上にオアズケくらった坂崎は、いつもの倍以上の本数を吸い無理やり気分を落ち着かせた。

喫煙スペースが濛々とし、オフィスに戻ろうとする頃にはすっかり背広にきつく匂いが移ってしまい、すれ違うOL達は怪訝そうに眉を顰めた。

デスクに戻っても周囲の態度が目につき、仕方なしにコンビニまで消臭スプレーを買いに行く羽目になってしまい、無駄な時間を浪費したと

戻るなり書類を見ながら呟いた。

そしてこのとき彼は遅まきながら思ったのである。








邪魔が入ってろくな事がないから、社内で恋人とセックスするのはやめよう、と。

「久しぶりに投稿しました。」
...2004/5/2(日) [No.108]
緋烏
No. Pass
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