まず信じられないのが、彼の生態。
性格は悪い。 しかも口も悪い。 粗暴だし、噂の吸血鬼にしては優雅さが感じられない。
――そう、雨宮くんは吸血鬼なのだ。
僕がこの事実を知ってしまったのは、学科の小旅行がきっかけだった。 + + + + 文学部西洋史学科の新一年生として入学した初々しい学生は 学科内での親睦もかねて一泊二日の旅行へ行く。 その中にひっそりと僕“津田南”もいた。 明るくて威勢のいい子はどんどん話し掛けて友達を作っていたが 僕は話し掛ける手前で怖気づいてしまい、 一人でむなしくバスの席に座るんだろうなあと思っていた。 ところが、最後の最後でバスに乗った僕は相席しかなかったので こっそりチャンスだと思いながらその人の隣に座ろうとした。
・・しっとりと濡れたように艶めく黒髪がまず僕の目に飛び込んできた。
それで妖しげな白い肌色。
眼は髪で隠れて見えないけど横顔が外人サンみたいに綺麗だった。
んで、血色の良い紅い唇。
はっ。みとれてる場合じゃないって。 僕は隣に座る事を彼の了承を得ようと思っていたんだった―― 「いつまで人の事見てんだよ。早く座れ」 僕の開きかけた口が半開きのまま止まっていた。 「座れって言ってんだよ」 切れ長の鋭い眼が僕を睨みつけた。 「あ・・ごめん・・なさい」 僕は急激に乾いてしまった口の中をなんとか回転させて声を出すと 席の足元に旅行カバンを置いて静かに座った。
怖くて隣の人に話し掛けることができなかった。 目の端で捉える彼の存在が恐怖でしかなかった。 僕は人と比べてとろいから、人の逆鱗に触れてしまうことがよくあった。 できないことがたくさんあった。 コンプレックスは自分自身。隣に座る彼のように足が長くて 僕の置いたカバンに足があたってしかたない事なんてないし・・
キャ―――!!
僕は心の中で悲鳴をあげた。 えらく足の長い彼がきつそうに足を落ち着きなく動かしているのを 見てしまったからだ。 しかも原因は僕のカバン。
神様――僕を苛めているのですか…?
「ご…ごめんなさい!」 僕は慌てて足元のカバンを担ぎ上げて膝の上に乗せると、 彼にカバンがあたらないように通路がわに身を寄せた。 「やっと気付いたか」 ため息をつきながら彼は僕のほうを見たようだった。 当然怖くて僕は彼の方角を見ることすらもできない。 「ごめんなさい!僕気付かなくって、ごめんなさい!」 目をあわせないように下を向いてぺこぺこと頭を下げひたすら謝る。 「ウルサイ。そんなに謝るな、迷惑だ」 ずきずきと心臓が痛くなった。 迷惑――かあ。 僕はカバンを握り締めて泣きそうになったのを堪えた。 「………」
それは突然だった。 カバンが強引に奪い取られて呆然としている僕の前で、 彼が天井のクローゼットに僕のカバンを放り込んだのだ。
彼はむすっとした顔で乱暴に座ると腕を組んで眠りの体勢に入った。
これは…お礼を言ったほうがいいよね…? 「あの、ありがとうございます・・・」 その声にちらりと片目を開けた彼は僕を捉えて、そしてすぐ目をつむった。 初めて目があった瞬間だった。 僕は彼の瞳に不思議な印象を受けたが、それが何かはわからなかった。
現地に着いてからランダムに決められた部屋割りどおりに動く事になり―― 僕の二人部屋の相手がバスの人だと知ったとき、 今日の僕は間違いなく凶運だと思った。 カバンを上に置いてくれたこと以外、彼は怖かったから。 そうそう、部屋割りの点呼で名前を知った。 彼の名前は“雨宮脩一”というらしい。 僕は彼の事をなんて呼べばいいか悩んでいた。 なんせ同室。 どこか暗い部屋の中でふたりきり。 長い沈黙が続くに決まってる。 なぜかって、話があうわけがない。 お風呂行こうか――と誘えるかどうかもわからない。 なんて中途半端な時間に着いてくれたんだ… 部屋で荷物を置いたら夕食を食べに行かなくちゃいけない。 どう誘えばいいんだよ…
僕は頭で雨宮を誘う文句を考えていた。 すると、いくら歩いても部屋に辿り着けない事に気付いた。 おや? 一時的に解散してから随分経ってしまっている。 ちょっと、待ってよ。 僕の部屋は303号室でしょ? 周囲を見渡すと506号室だとか507号室だとか表示してある。 階段上りすぎた!? え、ちょっとやっばいって!! 夕食の時間も過ぎてる!!
全速力で自室へと向かった僕はそのドアを開けたことを後々後悔する。
「え?雨宮くん…夕食は?」 夕食の時間はまだ終わってない。 なのに彼は自分のベッドで仰向けに横たわっていた。 彼は体を起こすと僕を見据えた。 鋭い眼差しに心臓をやられそうになりながらも僕はもうひとつのベッドに 近づいて重い荷物を置いた。 「待ってた」 僕に向けて、そんな言葉が発せられる事があまりにもめずらしくて。 一瞬耳を疑った。 「今、なんて…?」 僕は立ち尽くして彼を見つめた。 雨宮はベッドを降りると僕の側にやってきて、言った―― 「お前を待ってたんだよ」 僕は嬉しくて彼の目を見つめて涙ぐんでしまった。 「ごっ…ごめんね!じゃあ食堂に行こうよ、待たせちゃって本当に・・」 ドアの方へ歩き出した僕の腕が力強く引っ張られた。 雨宮の腕の中に飛び込んでしまった体を起こした僕は次の言葉に硬直した。 「吸いてえ。お前の血をくれ」 ええ??? 「たまんねーんだよ。お前の香り」 「今、なんて…???」 「今すぐお前をくれ!」 キャ―――!!? 一体何が起こってるのかわからないうちに、僕の体は雨宮に抱きしめられ、 首筋を舌で舐められた。 そこまでは抵抗の一文字を忘れていたものの、彼の唾液が首筋を冷やすと 僕の感覚は冴えてきた。 少しトーンダウンしている部屋の明かりに慣れて見えたものは 雨宮くんの尖がった歯。 まるで、昔映画で見た、あれみたいな――
吸血鬼――?! まさか、でも、嘘でしょ!?? 「うわわわわわわ!たんま、ちょっとたんま――!!」 「黙ってろ」 僕は恐ろしくて抵抗に抵抗を重ねたが、彼の腕力に勝てるはずもなく。 両手をひとまとめにされたあげく、壁に背を押し付けられた。 「いやだあ――っ!やめてっ!!やあ――!!」 「黙ってろと言った」 その瞬間、僕のファーストキスは奪われた。 かぶりつくような、荒々しいキスは僕の呼吸ごと声を奪っていく。 「んっ・・んっ!!」 嵐のようなキスが終わると、僕はなぜか腰にきていて、 足が震えて体を支えられなくなっていた。 「ふうん…」 雨宮の満足げな声が聞こえて見上げると、彼の不敵な笑みと出会う。 「血もうまそうなら精液もうまそうだ」
そして思い出した。 僕が見た映画の吸血鬼はただ普通に吸血してたわけじゃない。 目的の人とSEXしてた。 グロくて、途中で見るのをやめたから忘れてた。 そのくらい、僕は性にうとい。 そんな僕は今、考えた事もない境地に陥っているのだ。
雨宮くんは僕のジーパンとパンツを中途半端におろすと、 僕をベッドに投げつけた。 仰向けに転がった僕の上に彼が覆い被さってくる。 僕はぎょっとして自由になった手で彼の胸を押し戻そうとした。 でも見せ付けられる力の差。 僕の手は目的とは別に雨宮くんの引き締まったカラダを確認してしまった・・ 「うわ――っ!もうやめてよっ冗談にもほどがあるよ――!!」 僕がこう叫ぶと。 「俺は腹が減ったんだ。この本能が冗談とでも言うのか」 ひええええええ。 吸血の本能じゃなくて、食物を求めてくださいよ――!! 「あっ!」 彼の手がいつもより更に怖気づいた僕の分身を愛撫してきた。 日ごろトイレ以外に触る事のないソコを人の手で触られたのは初めてで、 恥ずかしいやら怖いやらでパニックになった。 「や…だ、触らないで…ぁ」 しかもさっきキスされたときみたいに腰に力が入らなくなる。 「初めてか?すげー敏感だな」 恥ずかしい!! 羞恥が僕を更に深みへと追いやる。 僕こと南の分身からは先走りが流れ出て、 そのぬめりが雨宮の行動を促進した。 ピンク色のそれの鈴口を優しく撫でたり、 強引に入れようとしてみたりした。 すると、南の白い体がいやらしくしなる。 すでに快楽に酔った顔つきは雨宮の雄の本能を抑えられなくしていた。 「ぁ…あぁ…んっ…はぁ…」
ぴちゃりと舌が南の下腹部を這った。 「ひっ…あん」 抑えきれない声が室内に響く。 「あっあぁっ・・いやぁ!おかしくなるっ!!」 分身が熱い何かに包まれた。 雨宮が彼の分身を口内に含み、舌先で先を突付きながら思い切り吸い上げた。 「やっ…ああ―――っ!」
僕は完全にショートしてしまった。 耐えがたいものがついに耐えられなくなって 世界が真っ白になった。
でもそれが“イク”ということなのだと雨宮は笑って言った。 「やっぱりうまいわ。お前の。初めてだ」 息を切らした僕はいつの間にか首筋を噛み付かれていて。 だんだん血が失われていくのを感じ取っていた。 雨宮のカラダが仰向けの僕にまとわりついているようだった。 血のトリコになっているんだと思った。 「ちなみに精液もうまいし。お前、俺の嫁に来い」
ん―――???
「い…今、なんて…?」 僕は今度こそ逃げなくてはいけないと感じ取った。 「だから。嫁にしてやるって言ってんだよ」 いっ… 「嫌だあ!!!」 「なんだと?!」
そこから先は思い出したくない。 なんて言ったって、“嫁にさせて下さい”と言うまでイカされたなんて 誰にも言いたくないでしょ?
雨宮くんと
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