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 (大学助手×大学生 初めてのえっち。/18禁)
あたたかなてのひら


 ――どうしよう。

 促されたソファに座って、膝の上に固めた拳の内側に汗が滲んでいるのを感じる。
 おれの今までの人生20年間、こんなに緊張したのってセンター試験前日以来かもしれない。
 いや、あれはあれで緊張したけど、なんか今回のこれとは話が違う気がする。
 どっちがより人生の一大事かってーと即座には決めかねるけど、結局センターに失敗して私立大に通ってるおれとしては、今の方がたぶん一大事なんだろう。
 それにセンター失敗は結果的におれにとっては幸いだったのだ。高い金払ってくれてる父ちゃん母ちゃんには悪いけど、おれは今の大学で、運命的な出会いをした。ゆえにおれは今とってもハッピーだ。
 ・・・でもでも、その運命の人と出会ってしまったからこその現在のこの緊張で、やっぱりどっちが人生の一大事かってーと・・・・・・。
「貴巳くん?」
 堂々巡りにグルグルしているおれの名を、極上の艶声が呼んで心臓がどっきんこした。
「どうしたの、なんか固まっちゃって」
 俯けていた顔を上げると、夕食後の片付けを済ませて捲り上げていた袖を下ろしながら、ダイニングから歩いてくる芳純さんの姿が目に入った。その麗しい立ち姿にますます心拍数は上昇して、とても直視できずにおれはまた俯いた。

 芳純さんはおれの所属してる講座の助手さん。2回生の後期に講座に配属された時にはまだ学生だったから姿を見たことはなかったんだけど、おれが3回生に上がった今年から、うちの助手になったらしい。
 ちなみに芳純さんは学部時代に2年間海外に留学してたらしくて、そのあと修士2年、博士3年を経て大学に就職したから、現在29歳のオトナだ。でも全然三十路前って感じがしないくらい若くて、綺麗で、かっこよくて、素敵なのだ。
 身長は、たぶん180が近いと思う。170そこそこのおれが並ぶと少し見上げてしまう。体格はそんなにがっちりして見えないんだけど、実は体全体にバランスよく筋肉がついていたりする。髪も瞳も皮膚もちょっぴり色素が薄くて、さらさらと日に透ける髪がおれは大好きだ。二重瞼の睫毛は長くて、目を伏せると頬に少し影を落とす。すっきりとした鼻梁、薄いくちびる、すらりと長い脚、センスのいい服装。全てがおれ好みな芳純さん。
 でもこんな彼だから、就任当初は大変だった。小さな学部にはあっという間に彼の噂は広まり、講座の違いなど関係なく芳純さんの周りには女の子が群がった。おれもその彼の容姿にのぼせてしまった一人だったのだが、とにかくものすごい人気ぶりだった。
 けれど徐々にその群れは減っていった。告白する女子学生たちを、片っ端から芳純さんはすげなく断りまくったのだ。あまりの淡白な断り様に、逆恨みした女の子が酷薄だとか冷血だとか吹聴して回ったほどだ。
 その芳純さんと、講座が同じおれは接点が多かった。ゼミも担当してくれている芳純さんとは個人的に話すこともよくあったけど、全然冷たいとかって感じはしなかった。むしろ優しくて、話題も豊富で、楽しい人だと思った。
 だからこそおれは、どんどん彼に惹かれていった。いろんな女の子たちが玉砕していくのを近くで見ていたけど、諦めることなんかできなかった。
 で、思い余って、諦めをつけるつもりで、当たって砕けに行ったんだ。
 “ 好きです ” って。
 でも芳純さんは、他の女の子をばっさり斬る時みたいな無表情は見せなかった。優しく微笑んで、おれの手を握って、囁いた。
 “ 僕もだよ ” って。
 あの時の芳純さんの手の温かさを、おれは一生忘れないだろう。
 嬉しくて、嬉しくて、舞い上がった勢い余って卒倒するかと思った。よくよく考えてみれば芳純さんはおれみたいな痩せっぽちのチビのどこがいいんだか全然わかんないんだけど、とにかくその日から、おれと芳純さんの秘密のつき合いが始まったんだ。

「・・・あ、もう9時だね」
 芳純さんの部屋で彼の手料理をご馳走になったあと、芳純さんは時計を見上げて少し寂しそうに呟いた。
「そろそろ送っていこうか」
 そう言って芳純さんはテーブルから車のキーを取り上げる。
 おれは自宅通学だけど、女の子じゃないんだからべつに無断外泊したって親もそんなに心配すりゃしないんだけど、芳純さんは非常にその点も真面目な人で、際限がなくなってしまわないようにとつき合う中にもルールを決めた。あまり非常識な時間になる前に、責任持っておれを家に送り届ける、という。
 でも今日のおれは、芳純さんのその腕を掴んで引き止めた。
「あ、あの、芳純さん」
 緊張して喉がカラッカラだった。
「どうしたの貴巳くん、なんか今日変だよ?」
 人が一大決心をしてきたというのに変とはなんだ、とは思うがそれどころではない。
 おれは今日一日かけてようやく準備した言葉を、勢い任せにぶつけた。
「今日っ、おれ芳純さんちに泊まりますからっ!!」
 その勢いが強すぎてなんだか喧嘩腰になり、芳純さんは少し体を引いていた。けれどその言葉の意味をすぐに理解して、腰を屈めておれの顔を覗き込んでくる。
「・・・泊まるって、決めてここへ来たの?」
「はい、あの、親には友達の家に泊まるって言ってきたから大丈夫ですっ」
 芳純さんの薄茶の瞳に見つめられただけでおれは真っ赤になってしまって、この動揺っぷりにガキだと呆れられはしないかと不安になってしまう。
「だから今日は緊張してたんだ・・・?」
「あ、あの、よしずみさ――」
 あてもなく続けようとした言葉は、芳純さんのくちびるに飲み込まれた。
「・・・ん、ふっ・・・・・・」
 口づけも未だ慣れない恋愛初心者なおれの舌を思うさま翻弄して、時間をかけて味わい尽くしてからようやく、芳純さんはくちびるを離した。それだけで腰砕けの体になっているおれを少しからかうように、耳朶に口づけながら芳純さんは、シャワー浴びてくるね、と言い置いてリビングを出て行った。
 パタンとドアが閉まる音に、おれは思わず床にへたり込み、ようやく長い息を吐き出した。


 芳純さんとのつき合いが始まって、もうすぐ2ヶ月。
 キスはする。芳純さんはキスが上手で、いつもうっとりとしてしまうようなキスをしてくれる。
 肌を合わせたことも、数えるほどだけどあるにはある。裸でベッドに入って、体にキスをしたりされたり、互いのものを触って高め合ったり。一度芳純さんに不意打ちでフェラをされてしまったのだけど、あれは快感が強すぎて訳がわからなくなる上に芳純さんに対してものすごく申し訳ない気分になって、最後はお願いだからやめてくださいと涙ながらに懇願してしまった。
 けれど、それ以上の行為となると。つまり、挿入の段階へ進もうという雰囲気になると、意気地なしのおれはいつも、怖がって逃げてしまっていた。
 だって本当に怖いんだ。おれは昔から男が好きな奴だったけど、誰ともつき合ったことはなかったし、もちろん性関係なんかなかったし、自慰をするにも後ろは使ったことがないんだ。しかもあそこは出す場所であって入れる場所じゃないだろう? そんな場所に、どれだけ太くて大きいか把握済みの芳純さんのものが本当に入るのかと思うと、想像するだけで痛くて途方に暮れてしまう。
 そんな心情を芳純さんも察してくれて、強引に進もうとは決してしない。キスで怖気づいたおれを宥めて背中を撫でてくれて、互いに吐精したところで止めてくれる。
 ――でも、そういうのって良くないと思うんだよ。だって結局それって、芳純さんに我慢させてるってことだろ? 焦らしの範疇ならまだしも、本気でこの先させないつもりかって思われたら、同じ男としてこの関係を続けさせる自信がない。
 だからこそ、今日は一大決心をして来たんだけど・・・。
「・・・あっ」
 体中を緩慢に触れ回っていた芳純さんの指がおれの後孔に触れた時、思わずひっくり返ったような間抜けな声を上げてしまった。
「いやだ? やめようか?」
 気遣う芳純さんの声に、おれは思いっきり首を振った。
「あ・・・のっ、この際だからお願いします。今日はおれがいやがろうと何しようと、無理矢理でもいいんで進んじゃってほしいんです」
「・・・そういうわけにはいかないよ」
「お願いです、そうじゃないとおれ」
 既にはちきれそうな緊張で精神状態がまともじゃなくなっていたおれは、困惑しきった芳純さんの前で泣き出してしまう。
「芳純さんがしたいこととか叶えてあげらんないなんてやだぁ・・・」
「あああ、わかったよ、わかったから泣かないで」
 芳純さんはおれの涙をくちびるで拭って、組み敷いたおれの体をぎゅっと抱き締めてくれた。
「・・・じゃあ、貴巳くん、ある程度の抵抗は無視して進むけど。痛かったら痛い、怖かったら怖いってちゃんと言うんだよ。どうしてもやめてほしかったら、それもちゃんと言って。約束できる?」
「うん・・・」
「いい子だね」
 そう言っておれの頭を一撫ですると、芳純さんは再びおれの後ろに手を這わせてくる。今度こそ余計な口を挟むまいと、おれはきつく目を閉じてくちびるを噛み締めた。
 芳純さんの長い指が、ゆるゆると円を描くようにしながら、おれの中へ入ろうと試みている。それを手助けしたいのはやまやまなのだけど緊張のあまりに余計に締めてしまい、力を抜いて、と芳純さんが囁いた。
 やがて、くっと芳純さんが力を入れた瞬間、その指がおれの内側に飲み込まれた。その異物感に思わず上がりそうになった声を、おれは必死で押し留めた。
「指、入ってるのわかる? 痛くない?」
 心配そうな、けれどどこか熱を帯びた声に、おれは夢中で頷く。痛くはない。まだ指一本だ。なのに、ものすごい異物感。うねうねと動く指に、なんともいえない疼きが湧き上がってくる。
 中指の半分ほどを入れた状態で、芳純さんは関節を曲げ、少しずつ広げる動きに入った。そしてサイドボードから何かのチューブを取り出し、おれの脚をM字に曲げて大きく開かせた。
「な・・・何・・・?」
 片手をおれの中に入れたまま、歯を使って蓋を開けているチューブが何なのか不安で、頭を起こして尋ねると、潤滑剤だよ、との答えが返った。
「指を増やしていくけど、滑りが足りないと貴巳くんを傷つけちゃうから」
 そうなのか、と思って頭を枕に落とすと、とろりとした冷たい感触。その次の瞬間、今までごく慎重に進んでいた指が、ぬるりと一気に奥まで入ってきた。
「やっ!?」
「ごめん、痛かった?」
 いや、痛くはないけど、と言う前に芳純さんの指が動き出す。
「・・・え!? や、あ、あぁんっ」
 自分のものとは思えない甘ったるい喘ぎが鼻に抜けて、咄嗟に手の甲で口を覆った。
「ここ、気持ちいい?」
 芳純さんの指先がぐにぐにと刺激してくる箇所から突き抜ける、この快感は何たることか。
「んん・・・っ、んーっ」
「声、聞かせてよ貴巳くん」
 芳純さんの手が、口を覆ったおれの手を外して握り合わせてくる。その芳純さんの声の色気というか、エロさといったら、もう普段の清潔な芳純さんしか知らない学校の奴らが聞いたら鼻血噴いてぶっ倒れるに違いない。
「あ、あ、あ」
「貴巳くんかわいい・・・感じやすいんだ」
 ギャーとか叫びだしたい犯罪的なエロさの眼差しに見つめられて、おれはもうどうにでもして状態で体を委ねた。
 でも握り合わされた掌の温もりだけは、ちゃんとこの欲情した芳純もいつもの芳純も全部ひっくるめて自分の恋人の芳純なのだ、ということを教えてくれる。だって、告白したときに俺の手を取ってくれたあの手と、同じだ。この手はおれを傷つけたりしない。
 そのもう一方の手の動きが、ぐにぐにからぐるぐるへ、そしてちゅくちゅくと抜き差しを始めると、そろそろおれの羞恥心も限界になってくる。指もいつの間にか3本にまで増やされていて、人間やればできるものだと変に感心する。そしてそれはともかくこの泣きじゃくってる張り詰めた前もそろそろ何とかしてはもらえないだろうかと、おれは芳純さんの腰に自分の腰をこすりつけた。
「・・・貴巳くんったら、やらしーんだから」
「芳純さんだってっ・・・」
 確かに触れた芳純さんのものもしっかり屹立している。
「貴巳くん・・・・・・、貴巳くんの中に入りたい・・・・・・いい?」
 いいも悪いもあるかー!! と思う間もなくずるりと指が抜き出され、代わりに芳純さんの熱く滾ったものが押し当てられた。
「あ・・・あ、待って」
 反射的に待ったをかけてずり上がろうとしたが、芳純さんの腕ががっちり抱き締めて逃がしてくれない。
「ごめん、待てない」
 いつもの冷静で紳士的な芳純さんからは考えられないような切迫した欲情を瞳に湛えて、おれの膝裏を腕で抱えあげ、浮いたおれの尻に腰を――

(痛――――――い!!)

 叫ばなかったのは本当に奇跡だったと思う。潤滑剤の助けを借りてさえ、芳純さんはその穴を限界以上に押し広げ、奥へ進む動きには裂けるような痛みを伴った。
「ごめん、貴巳くんごめん、」
 うわ言のように、余裕を失った芳純さんはおれに謝り、逃げたがるおれの体を押さえ込んで先を目指した。
 けれど不思議なことに、体が反射的に拒むほどには、おれの中に抵抗感はなく。確かに痛いし、すごい圧迫感だし、苦しいのは苦しいんだけど、なぜだか嬉しい。
 芳純さんがおれの中にいる。おれの中に入りたがってる。迎え入れてやりたいと、心はそう願った。慣れない体は、なかなか思うようには行かないけれど。
「・・・貴巳くん、全部入ったよ」
 少し呼吸の乱れたその声に、瞑っていた目を開けた。目の前で動きを止めた芳純さんは、やっぱり普段からは想像の及ばない艶やかさを纏っていて、おれはうっすらと汗を浮かべた彼の額にそっと触れてみた。
「合体・・・成功?」
 訊くと、いつもの大人の雰囲気を取っ払ったような屈託のない笑顔を、芳純さんは浮かべた。
「うん、成功成功」
「芳純さん、動いていいよ?」
「・・・いや、やめとこう今日は。これ以上は貴巳くんには負担にしかならないよ、顔色も良くないし」
 そう言って芳純さんは、ゆっくりとおれの中から抜け出た。ティッシュでその砲身を軽く拭い、痛みで萎えてしまっていたおれのものと一緒に擦り始める。
「・・・あ、ん」
「貴巳くん・・・・・・」
 中途半端に置き去りにされていた快感は思い出したようにおれを襲い、あっという間におれは果てた。少し遅れて芳純さんも果て、安堵と共に今までの緊張の糸が切れて疲労がどっと押し寄せ、おれはそのまま気を失うように眠り込んでしまった。

 本当は、大人な芳純さんに向かって背伸びしたくて。ガキな自分に愛想をつかされたくなくて。見栄と虚勢だけで臨んだ無謀な前進だったけど、多少無理してでも進んでみてよかったな、とおれは思った。
 芳純さんと、ほんの少しだけど近くなれた気がするから。
 眠っている間も、つないでいてくれた芳純さんの掌の温もりを感じていた。その熱が、いつまでも変わらずおれに触れてくれることを願って。


     <END>
「お初の緊張感(笑) サイト内小説です。」
...2004/4/26(月) [No.106]
村上 侑
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