ゆらゆらと揺れる。
波に身体を委ねて、ゆらゆら揺れる。
気が遠くなりそうだけど、どうしようもなかった。
自分の力では何も出来ないから、所詮無力であったから、だからただ揺れる事しか出来ない。
波に身体は流されてもう、今自分がどこにいるのかなんて分からない。
目に焼き付く灼熱の太陽が見えるだけ。
ピカピカと光る眩しい太陽に恋いこがれていたのに、今はそれが恨めしい。
葉山 草太。
―――――――――小学六年生の夏休みの真っ直中に海で溺れる。
「葉山君~検診の時間です」
パタパタと白い白衣を纏った、病院の先生がやってきた。
「えー、また検査??もう俺大丈夫って言ってるじゃん」
ベットの上で週刊誌に読みふけっていた俺は、眉間に皺を寄せて思いっきり嫌な顔をする。
でも、先生は眩しい笑顔で「何云ってるの!」っと叫んできた。
この人はきっと今自分がいる場所が病院の入院患者のいる部屋だとは微塵も思っていないのだろう。
毎日毎日検診に来る度、大声で子供を呼ぶのだ。
もしかしたら、本人は自分が医者である自覚も無いのかも・・・
「君はここに運ばれた時、実際死んでいたのよ?念には念を掛けないとだめ」
「美佐先生、心配しょうー」
俺と女医の美佐先生が話して(叫びあって?)いると、俺の隣の奴が声を上げた。
「あら裕也君、別にあなたも一緒に診てあげても良いのよ?」
隣のベッドに俺と同じく寝ころんでいた雅 裕也に美佐先生は優しく微笑みかけた。
今ならサービス付きっとウインクまで飛ばしている。
「げっ」
だが、美佐先生の笑顔を恐れるように裕也は布団に潜り込む。
病院嫌い、先生嫌い、お薬嫌い、注射嫌い・・・っと並べると後を絶たない苦手意識の盛んな裕也は
一気に首を引っ込めた。
「あら、残念・・・。裕也君なら喜んでくれると思ったのに」
美佐先生はさも残念だとばかりに、肩を落とした。
一方草太はその光景を面白く見守っていた。
草太の隣のベッドを使う裕也は、自分と同じ年で小学六年生である。
だからか、入院の間はずっと行動を共にしていた。
勿論彼の極度の病院関係嫌いな事は知っている。
「じゃ、行こっか」
美佐先生は肩をあげ、クスクスと俺と一緒に笑いながらそう言った。
「え?」
だが、俺は美佐先生の言葉にキョトンとするだけだ。
何で?っと首を傾げた。
先生がここまで検診に来たのだから、わざわざ自分が出向く必要は無いのではないか?
すると美佐先生は申し訳なさそうに、一つため息を零して訳を説明してくれた。
「私、明日から産休に入るのよ。だから葉山君には悪いけど新しい先生の所まで行って
挨拶をしてきて欲しいの」
「えー!!??」
俺は吃驚して、大声で叫んでいた。
産休??美佐先生が?
そう続けた俺に美佐先生は頷いた。
「草太、知らなかったのか??前々から先生言ってたじゃん」
いつの間にか裕也は布団から顔を出していた。
さっき美佐先生が、諦めたのを見届け彼は顔を再び覗かせたらしい。
「し、知らなかった・・・」
がーん。っと俺は顔面崩壊した。
俺の担当変わっちゃうの??
「ごめんなさいね、私も皆と別れるのは辛いけど、でもここで子供を産むからいつでも私の部屋に
いらっしゃい。相手してあげる」
美佐先生は、またウインクを投げ飛ばした。
草太が入院するここは、大きな総合病院である。大きな病院だけあって、小児科もあるし勿論産婦人科
もあった。昔から美佐先生はここの病院に通院していたそうだ。
俺はショックに打ちのめされて、ガクリとベッドに倒れ込んだ。
「葉山君・・・」
美佐先生が、心配そうに顔を覗かせた。
俺は慌てて顔をあげ、笑顔を向けた。折角子供が産まれてくるのに、嫌だ嫌だとだだをこねては相手に
悪い俺だって、もうそんなにガキじゃないんだ。
「分かった。俺美佐先生の所毎日行く!んで子供も見せてね」
明るい調子で答えた俺に美佐先生は安心して、ホッと胸をなで下ろした。
「えぇ、いつでも歓迎するわ。私のマイベイビーにも、一番に見せてあげる」
美佐先生は俺にグッと親指を突き立てた。
だから、俺も美佐先生に親指を突き立てて、お互い笑いあった。
一方お隣さんは、そんな光景を頬笑ましく眺めていた。
草太が美佐先生を好きだと言う気持ちを知っていたからだ。
**
草太は嬉しいような、哀しいような、複雑な想いで廊下を歩いた。
美佐先生結婚してたのかぁ・・・・。
ハァと大きなため息を零した。
美佐先生はかなりの童顔だから、絶対そう言うの無いと草太は思い込んでいた。
勝手に自分で理論付けて、勝手に浮かれていただけだった。
そりゃぁ、相手は大人の人だから自分のような子供は眼中に無いことは分かっていた。
分かっていたけれど・・・、やっぱり草太はショックを隠せなかった。
トボトボとしょぼくれて歩いていると、後ろから誰かに声を掛けられた。
草太は、すぐさま後ろを振り向き相手を確認した。
そこには、見慣れぬ男性が白衣を纏いにこやかに俺に手を振っていた。
まずは「こんにちは」っと爽やかに挨拶をした後「じゃぁ入って」っと草太を中に促した。
目の前にあるのは、ドアである。診察室だった。
草太はいきなりで、何が何なのか分からず躊躇った。
すると相手は「あぁ」っと軽く頷いて、一人勝手に問題を解決していた。
俺は首を捻る。
「初めまして、だったね。僕は写真を見ていたから分かったけど、君は分からないよね」
白衣を纏った医者は申し訳ないと謝った。
そして自己紹介をして、俺はやっとで納得をする。
「今日から中山先生の替わりに君の担当になった。飯島です」
「はい、口を開けて・・・」
「ん、問題は無いね。先週葉山君が風邪気味だって中山先生が言ってたけど、もう心配は無いみたい
だ」
カチャカチャと金属音を響かせて、俺を一通り診察し終わると俺は飯島と出会って初めて口を開いた。
「もしかして、毎日俺はここに来なくちゃいけないの?」
飯島はカルテに遣っていた瞳を、草太に向けた。
「まさか、今日は僕がちょっと忙しかったから特別って事で君に来て貰っただけで、」
飯島は明日からは僕が行くよ、っと耳を擽る優しい声で言った。
さっき廊下で声を掛けられてからずっと思っていたのだが、俺はちょっと可笑しかった。
四六時中笑顔を翳し、笑う顔が俺の脳天に突き刺さる。
何度も何度も頭の中で飯島は笑っている。
それに、飯島の優しい声はさっきまでしょぼくれていた俺が一気に気を持ち直す事が出来るほど
安らげた。
ドキドキ・・・
俺は訳の分からない動悸に、焦る。
そんな草太の様子に、飯島が心配してか困った顔をしている。
「気分悪い??」
身を草太に向けて、俺の椅子を引いたと思った瞬間、
「熱は無いね」
大きな大人の手を、草太のおでこに乗せた。
すると一気に俺の熱は上昇した。
「は、やまクン??」
飯島は慌てていた。その姿は正直草太には笑えた。
ここで笑ってしまえば、少しは気が楽になれたかもしれないけれど・・・
俺はぎゅっと唇を噛み締めて、我慢するかのように食いしばった。
「葉山君??」
草太の突然の異変に飯島はどうする事も出来ない。
草太もどうして良いのか分からず、俯いた。
これ以上一緒にいたら、俺おかしくなりそう・・・。
膝の上に置いた拳に力を入れた。すると、その手の上に暖かいものが触れた。
それが何なのか見なくても分かった。飯島の大きな手のひらだった。
草太は慌てて、飯島の手を振り切り自分の胸元に両手を抱え、真っ赤に蹲った。
「そんな顔・・・されると困るよ」
飯島は、失笑を漏らした。
その発言に草太は疑問を持ち、「え?」っと飯島を見上げたのと同時だった。
何?っと言うつもりでいたそこは、熱い何かによって閉ざされた。
「んっ・・・、はぁ・・・」
相変わらず真っ赤な顔をしたまま、今のこの状況を飲み込めない相手を飯島は見下ろした。
サラリとした髪を優しく掬って、口元にまで運ぶ。
真夏の空の下遊びきったのだろう黒い肌。脱色もしていない、自然の髪。今の状況について来れず
見開いたままの大きな瞳。息を継ぐ事もままならず、微かに息を漏らす口に、それぞれが細かく幼い
パーツ。まだあどけさを保った、子供。
飯島は自分の興奮に自我を失った―――――――。
「せっ・・・んせぃ、・・・あっ」
サラサラとした柔らかい肌を、確かめる様に飯島は手を這ってきた。
さっきまで纏っていたパジャマは床に舞い落ち、半裸にった草太はヒクリと身を飛び上がらせる度に
飯島にしがみついた。
座るスペースが丸く、背を置く所も無い椅子に、じっと座ったままではいられなかった。
だから、今目の前で自分に優しく触れてくる相手にしがみつく事しか出来ない。
「・・・っ、あ・・・あん、やぁ・・・・ッ・・・」
胸を這う飯島の手は、さっきから何かを求めていた。
やがて目的地を見つけ出した手は、ソコにつつーっと触れた。
「あっ・・・・・、!」
「葉山君・・・」
胸の突起のソコに、飯島の指が触れるとビクンと身体がうさぎのように跳ねた。
飯島は俺の名前を囁いて、熱い吐息を胸に吐き俺の突起に舌を絡めた。
熱い熱い先生の舌は、俺の理性をぶち壊す。
「熱っ・・・せんせっ・・・」
目頭にジワリと涙が浮かんだ。
さっきから、先生の触る所が熱くてむず痒くてでも気持ち良くて、もうどうにかなってしまいそうで。
乳首に触れた舌先はそれらよりももっともっと熱くて・・・
俺は知らず知らずの内に首に手を回し、しがみついて「もっと」とおねだりをしていた。
俺は先生を求めて、夢中で抱きついた。
相手が大人の男の人だとか、ここが診察室だとか、そんな事はどうでもよくなっていた。
大きな飯島の体に身を任せると、草太に最高の快楽を与えてくれる。
こんな事は好きな人とじゃないと、しちゃいけないとか、そんな事も今の俺にはどうでもよかった。
得た事も無い愛撫が、俺は恋しかったから。
まさか、海で溺れ入院した俺がこんな自体を巻き起こすなんて、思ってもいなかった。
夏休みはまだ・・・始まったばかりだった。
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