「…昨日は失態だったな~ι」 仕事中、ぽつりと呟いた言葉。 あの坂崎に抱きついて、しかも泣いてしまった(爆) 穴があったら入りたいぜ…ι なんであんな恥ずかしいところ見せちゃったんだろう? でも、ヘタに知らないふりするより、ああやってはっきり言ってくれた方が後々傷つかなくていいし、そういった面では、常務はとても優しい人だ。 「ははは、もしかして…俺ってば……好きになっちゃったりして?ははは、んな馬鹿な…ι」 優しくされたから… そんな乙女チックな発想、自分の口から出るだなんて思いもしなかったけど、いざそんな気持ちになると、やはり気になるわけで…… 実父に犯されたせいで、って……二丁目に通ったりしてるわけじゃないぜ!? そこだけは誤解するなよ!!? ……ただ、こんな気持ちは初めてで…… 綾瀬にだってそれなりの女性経験はある。 でも、それは完全に遊びで(お互いに)今まで一度も本気で人を好きなったりする事はなかったんだ。 「…でも、言ったら即刻嫌われるよな…」 坂崎が自分が眠っている間に何をしていたか知る由もない綾瀬は、一人葛藤の渦に身を置いてもがくのであった。(合掌)
「せ…あやせ…」 「んぁ…?」 目ボケ眼でゆっくりと上体を起こすと、なんと目の前には坂崎がいて思わず『おわああっ!?』と飛びのいてしまった。 「…何寝ぼけている?それより、そろそろ終電切れるぞ。また会社に泊まりこむつもりか?」 十一時… ここから駅まで三十分。 まだ間に合うな。 「え、あ、い、今から帰りますっ!」 ばたばた身支度をはじめる綾瀬、それを坂崎はじっと見詰めていた。 そしてはたと綾瀬が彼に視線を向ける。 「……俺、また何か…言ってました……?」 「いや?今回は何も」 「そ、そっかぁ…よかった」 あからさまにホッとする綾瀬は身支度の続くをする。 「……綾瀬」 「はい?」 「好きだ」 「-------え?」 「お前が好きだ」 う、嘘だろ…? あの常務が…俺を?? 躰が熱くなる。 俺が…常務を好きなこと、ばれたのか?? でも何で急に… 「綾瀬、私は軽口でこんなことを言うつもりはないからな。前から……お前が入社してきたときから…気になっていた…いつか、私の傍におきたい…そう思いつづけてきたんだ」 「さ、坂崎…常務…」 しかし綾瀬は当惑する。 もし…付き合ったとしても、躰を繋げる事はできないから…… 気持ちの上で好きでも、やはり躰が拒絶してしまうだろう。 あのおぞましい記憶… あの体験のせいで… しかし、坂崎はそれすら見越したように告げる。 「……お前が素直にやりたいと思うまで、私は待つよ」 「!!…さ、さささ坂崎常務!??そんなこと言って、もし俺が、その類のこと嫌いだったらどうしたんですか!?そんな堂々と公言しちゃって…ι」 「でもお前は違うだろう?」 「!」 言い返せない…… 「お、疲れ様でしたぁ!!!」 素早く礼をして、脱兎のごとく会社を後にする綾瀬。 ブラインドの隙間から慌てふためく彼を見て、坂崎は微笑んだ。 「………脈あり…といったところか?」 この男、なかなかどうして食えない男であると同時に、かなりの自信家でもあった……。
「…やべ…ιまだおさまんないや…」 ふとした拍子に動悸がして、顔が赤らむ。 終電の人気の少ない車内で手すりに凭れながら流れていく夜景を見つめる。 「……坂崎…さん」 あの人が欲しいと思う。 殻が疼くのは感じている。 しかし…… 実際その現場になったら? きっと拒絶してしまう。 あの人を傷つけてしまう… 「……それはやだな」 いつのまにかその車両には綾瀬一人。 ポツリポツリと呟く言葉を誰かに聞かれないというのは都合がよかった。 終電の終着駅。 そこから暗い夜道を一人歩いて、煌々と照らす電灯の明かりの下、所々にカップルの姿があったり…… 「(いい気なもんだねぇ~)」 疲れているせいもあり、皮肉めいた事を思ってしまう自分がちょっと嫌だった。 こんな時はサッサと寝てしまうに限る。常務の事は明日考える事にしよう。
「綾瀬、これを頼む。大至急だ」 「はい」 ずしりと重いそのポートレートは一枚一枚何箇所も坂崎の書き込みがしてあって… こちらに渡す前に彼が随分手入れをしたのだろう。 おかげでものの三時間ほどで全てが片付いた。 「常務、先ほどの書類ここに置いておきます。私はこれから打ち合わせがありますので、四時過ぎには戻ってきます」 「……ああ」 無理やりなスケジュールにしていることを…悟られただろうか? 返事をしなくてはと思いつつ、それでも避けてしまう自分がいる。 営業以外普段は使わない『私』とか… 社内で、しかもこのプロジェクトチームの中で使って… 西沢(同期の友人)にだっていつもタメ口だし、先輩にだって、一人称は『俺』だ。 そう。 坂崎常務にだけ…他人行儀な態度を取っているのは誰の目にも明白だった。 しかしこの火のついたような忙しさの中、誰もそんな指摘をするものはなく、綾瀬は少しホッとしていた。 聞かれれば……どう答えていいかわからないから… 「……眠……ここんとこ睡眠しっかりとってないからなぁ……」 パチンッと一発頬に気合を入れて、綾瀬は打ち合わせに出かけた。 それから、打ち合わせも無事終了し、契約も取れ、意気揚揚と会社に戻るがそれも部署のドアの前までの事。 「………思ったより遅くなったな…」 時間は当に五時過ぎ… 残業のない社員は帰り始めている頃だ。 「只今戻りました~」 「遅い」 「!!じょ、常務…」 「一時間と十五分の遅れだ。プロジェクトチームの連中はそれぞれの持ち場に帰ってしまったぞ」 「……すみません…」 「早く今日の分を片付ける事だ。そうでないと……ゆっくり話もできんからな」 「は~い…」 って、話って何さ!? もしかしてこの間の…? 「言っとくが手伝わんぞ、私は少し仮眠をとる。終わったら起こしてくれ」 「は~~~~~~い~~~~!」 それからPCの前に座り指を鳴らした後仕事に打ち込むが、会話もない空間、キーボードを叩く音と、空調の音と…坂崎の寝息だけが静かな空間に響く。 「………これ終わったら帰っちゃおっかな…ι」 二人でいたくない…… そればっかりが脳裏によぎる。 「Σあっと、いっけね。エラーだ」 急いでプログラムを修正して仕事の続きを始める綾瀬。 集中力にかけているなと思いつつも、与えられた仕事をまずやってのけてしまわねばと…… 「~~~~おっしゃ!終わった~~~ぁι」 仕事を始めて早四時間…… 「10時かぁ……終電までは十分だわ」 背伸びをしてさぁ帰りましょう……と思った矢先… 「やっと終わったか」 「Σげっ……お、起きて…ι」 「あれだけ寝れば起こされなくとも自然に目が覚める」 「…すんません、時間かかりました」 「いや、これは明日の昼までに出来ていればいいものだ。別に遅くはない」 「………ところで、話ってなんですか?」 「この間の返事を聞いていない」 「!!」 まっすぐな瞳。 じっとこちらの返答を待っている。 綾瀬は言葉に詰まった。 好きです…なんて言えない。 好きだけど、確かに抱かれたいとは思うけど…… きっと身体はそれを拒絶するだろう。 肌でわかる。 プラトニックでいられるわけがない。 彼を苦しめたくないから…… 「……このあいだの、話は………お断りします…俺、そーゆーの、駄目なんですよ。実は…」 「実父に犯されたからか?」 「!?なん……」 「夢に魘されていたと言っただろう、その時呟いていた。泣きながら………」 まさか… 自分はそんなことまで寝言で言っていたのか!? じゃあ全部知られてしまったってことか!? 俺の過去……… 「あ……アンタにはっ…」 言葉が遮られる。 そっと唇に指が触れる。 「…それでも俺はお前が好きだ。愛している…ずっとお前に触れたかったんだ。もしセックスが嫌ならせめてキスだけでもしたい……ずっと、そう思っていた…」 「!…っ」 触れた指が。 暖かな手が。 そっと頬を撫でる。 髪に触れてくる。 坂崎の顔が近づいてくる。 どうして逃げない? 吐息が絡む位置まで近づく。 「…ん」 坂崎の口づけは巧みで… 頭の芯がボーッとしてくる。 「ん………ふ…ぅ…」 口腔を執拗に嬲られ、次第に洩れ出るくぐもった声。 そしてふと思った………
どうして……俺は逃げないんだろう……?
唇が…触れられている部分が熱い… 強引なんだけれど、それ以上の強行には出ない。 ただ深く口づけを求めるだけで… 「…っ…ふぁ…」 名残の糸が二人を結び、引き寄せられる糸が消えるとまた熱い吐息が口腔を満たす。 自分から舌を絡めたりはしないけれど、それでも坂崎のキスは巧みで、ちょっとでも気を抜けば自分から求めてしまいそうで……とても危うい。 やっと完全に唇が離れた時には、もう自分の力では立っていられなくて傍の椅子になだれ込むように腰掛ける。 「……これでもまだ、ダメか?」 「……確かに常務ってキス上手すぎですけど……っ!だからって俺は……」 「先ほどあんなにいい声出して感じてくれただろう?本当に嫌なら…あんな声出したり流れに身を任すなんてしない。違うか?」 「!……」 常務が好き… それは認める。 けれどそれがどれほど苦しいかなんて…この人はわかっていない。傍にいるだけで満たされる、そんな関係ではいられる筈がない。 だから離れる。 これ以上近寄らない… これ以上、好きにならないように…… 「……何度も…言わせないで下さい…俺は…」 「…絶対そうなると決めつけて…私から逃げるのか?」 まっすぐな瞳… そんな目で見ないで… お願いだから… 「……じゃあ、一度身体を繋げれば、全部わかってくれるんですか?」 こんな言い方はフェアじゃない。 怒らせるための…… ただの感情のない『言葉』だ… しかし坂崎は動じなかった。 「……それは私を怒らせてこの場から離れるよう仕向ける為か?ならば意味がないな。私は頭が悪いからな。それは単なる合意としかとれないよ」 「!!な、何言ってんですか!!常務!?」 慌てて席を立とうとする綾瀬の腕を掴んで、坂崎はその甘いマスクで、綾瀬の耳元で囁く。 「……試してみる気はないか…?」
今までずっと隠してきた思いが一気に燻りだす…
試す気ないかって言われても…(滝汗) そりゃちょっとぐらつくよ? でも… 「どうだ?綾瀬」 ずずいと迫ってくる坂崎をかわし、口上を続ける。 「まぁね、俺も常務のこと嫌いじゃないです……だから、言われてもそれほど嫌だったりしない……けど…やっぱり触れられることが……」 「怖いか?」 それを言葉出ださず、綾瀬は静かに頷く。 そんな彼の頬に優しく触れ、先ほど以上に慈しむように甘い口づけを降らす。 それは罠。 このまま流れに身を任せたり、その首に腕を絡めようものなら…もう二度と戻れないだろう。 一時はそれでいいかもしれない。 けれど…… 触れ合えばそれから離れてしまう事が怖くなる。 ずっと傍にいたくなる。 甘美な思いに酔いしれていたいと、その瞳に自分が映っていて欲しいと、醜いまでに激しい独占欲となってそれは自分を締めつけ、支配するだろう。 それだけはしたくない…… だから手に入れることが、触れる事が怖い… 受け入れてしまうのが怖い。 「……っ……」 深く重ねられた唇は熱っぽく。 激しく口腔を嬲る。 それが心のそこからの愛情表現かのように… 「…んっ…ぅ……!?」 するりと伸ばされた手。 太ももを撫でまわし、下から上へと淫らがましく煽ってくる。 その片手はベルトを器用な手つきで緩め、スラックスのボタンを外し、ファスナーを下ろす。 「んっ…んんっ!…っ…」 引き剥がそうとしても敵わず、口づけはより一層激しさを増し、その快楽に身を任せてしまいそうになる。 「!!」 下着の中に忍ばされた手が器用にそれを弄ぶ。 キスでかなり気分が昂揚していたためか、はたまたその手技があまりにも巧みだったのか…… すぐに意志をもち始め、それもいいように遊ばれる。 抵抗しても力づくで離そうとすると、実にいい所ばかりを攻め立て、その抵抗力を極限まで下げてしまう。 「んっ……んっ……っ…ぁ…」 躰が震える。 与えられる快楽をなんとか我慢しようと必死で躰が強張る。 それでも時折しどけない声が洩れて、それが坂崎を強く刺激する。 やっと唇が開放され、開口一番に彼は言った。 「…まだ我慢する気か…?」 「あっ…や、やめっ……常…務…っ…!!さか、ざ…きさっ……!」 「いいかげん諦めろ。私も早く抱きたい」 「!!」 そんなことを言われた日にゃ… 一気に頬に赤味がさし、言葉が詰まる。 「お前だって辛いだろう?早くもっと気持ちよくなりたいだろう」 「…な、ことっ…ありませ…ああぁっ!」 放たれてしまったものを手に絡め、綾瀬に見せつけるように舐め取る。 その様が恐ろしく淫らで、それでいて力強い美しさがあった。 「!さ、さかざきさっ…なにすっ」 「こんなにしたままでいいのか?綺麗にしてやろう」 「いい、ですっ!自分で…あぅ…っ…!は…ぁ…あ…」 止めきれず彼の頭が自分の股間にうずまる。 深く咥えられたそれを強く吸い上げられ、放ったばかりなのにまた意思を持ってしまう。 「や、め…て…くださ……」 ちゅるちゅるときつく吸い上げ、嫌がる綾瀬の表情をちらりと見やる。 恥じらいと快楽でひどく可愛らしく見える彼に満足したのか、やっとそれを口から出したのだった。 出した瞬間、舌先でぺろっと先を舐めてやるとまた小さく声を上げる。 「…もっと見たいな…」 「え…?え、ええ!?あの、その、何を!?」 「決まっている」 あくどい笑みをむけ、彼が始めに何度も言った言葉をすっかり忘れ、坂崎は微笑む。 「今から一発やるんだよ」 「い、いっぱ…つ…?」 ちょっと待ってください。 やるも何もここは会社のオフィスで、しかもまだ残っている人とかいるんです。 いくらなんでもそりゃやばいでしょう。(滝汗) 「綾瀬…」 「わ、うわわっ!?ちょっ…タンマ!!常務!」 「名前で呼んでくれないのか?雅人…」 「!!!」 名前を呼ばれた瞬間、全身が総毛だった気がした。 甘い響き。 もう一度呼ばれたいと思ってしまった。 すると彼もそれを感じ取ったのか、実に優しげな微笑を称え、耳元で囁く。 「愛してる、雅人…」 「!! んっ……!」 「可愛いよ」 半分だけ脱がせて自分が入れやすいように足を開かせる。 「ここまでされてどうして逃げない?」 「わ、わかりま…せっ…」 「拒絶反応が出ると、自分で勝手に思っているだけだろう。現にお前はキスも奉仕も全部殆ど無抵抗だったじゃないか」 耳元でそんなことを囁かれ、羞恥でどうにかなってしまいそうだ。 吐息のかかる耳がくすぐったい。 「いい加減素直になれ…でないと、俺も短気な方でな。あまり手加減してやれる自信がない」 何を言うんですかアンタは!!! 平然と恥ずかしいことを言ってのける彼が時々尊敬に値するかもしれない… けれど。 すべて彼の言うとおりなのかもしれない。 だとしたら…… 今まで押し殺していた言葉を、綾瀬はとうとう口にする。 「………じゃあ…ほんとに、無理なら…言いますから…その時は…やめて、ください…」 すると坂崎は嬉しそうに笑った。 「わかった」 「…ぁ…」 了承を得た坂崎は綾瀬の腎部をゆっくりとかき回し、苦痛がないよう慣らしていく。 「ひぁ…っ……あ、あぁっ…」 完全に自分の体重を支えきれなくなった綾瀬はデスクに上体をうつぶせて坂崎に後ろを向ける姿勢をとらされる。その格好が恥ずかしくてきつく目を閉じる綾瀬に『力を抜け』と促し、十分に潤った蕾に坂崎は己を突き立てる。 「ああっ!!あ…ぐ…っ……あっ…あっ!やぁっ…」 「雅人…愛してる…」 気が狂いそうな快楽の中囁かれた言葉はしっかりと、自分の胸に刻まれる。
どのくらい身体を繋げていたのだろう…? 何度目かの精を吐き出した時、ふと時計に目をやるとちょうど終電が出た頃だった。
~後日談~
あれ以来もうすっかり坂崎に陥落されてしまった綾瀬は、少なくとも週三回は彼と肌を重ねるようになった。 「………信じらんねぇ…ι 俺あんなにやらし~奴だったんだ…(自己嫌悪)」 「雅人」 「!……あ…坂崎、さん…」 さすがに前日あ~んな事やそ~んな事をした相手と仕事場で顔を突き合わせるのにはまだ抵抗があった。 「二人の時は昇と呼べと…言った筈だが?」 指摘されて急に頬が紅潮する。 まだ彼の名前を呼ぶのが苦手な綾瀬は、どもりながらも真っ赤な顔でその名を呼んだ。 「の、昇…さん…/////(真っ赤)」
満足げに微笑む彼がいる……
<END>
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