好きにさせてやる






交わす視線が、あやうさを孕み
それと気づかれる一歩手前の
ぎりぎりの刹那で
ふたりの視線は逸れる

そしてまた、あわさり
逸らされ

ちらちらと交差する瞬間に






ふたり初めて想いをぶつけ合った、ほんの数時前の
昨夜へと、
どうしても。意識が持っていかれる。

土方は
内心で苦笑して、
目の前の隊士へ意識を向け直しては、指示を続ける。

沖田が
そんな土方を
隊士の背後からじっと見詰める。

土方は
隊士に指示を伝える合間も
自分をみる沖田を、ちらりと見返す。
何度も、
何度も視線を絡ませ。
隊士が不思議に思って、
後ろの沖田を振り返るまで。

土方は
また、逸らした。
隊士が不思議に思ったまま、土方へと顔を向け直せば、
すでに土方は、隊士を見ていて、指示を続け。


沖田が
昨夜の続きのような眼をして、
土方を見詰めているのを
感じている土方が、見返すたび
孕む熱が
火花よりも鋭く激しく、絡み合い

それなら
視線の交わされない間はどこへ、その熱は奔るのか

土方は知っていて
好きにさせる

からだじゅうに浴びる熱を
着物の下へ射るような熱を、

受けて
その熱に舐めまわされて土方は、
隊士に気づかれないように、そっと小さく喘ぐような息を零す。



沖田の目には
土方しか、みえていない。

(貴方の着物が、透けて見えるようだ)

昨夜の土方の、裸体が
まるでそのままに、そこに。

(貴方のからだを抱いたあとは、)
余計なものが
一切みえない
隊士も
土方を纏う着物も

土方だけが。みえる。

(まだ貴方を抱いているような気分になるのか)

視線で



それだけで、

土方は
乱れそうになる息を抑えて、
隊士へ指示を続ける。


(総司)
沖田の眼の中で、いま、己がどんな姿なのか
土方は、
力の抜けそうになる体を奮い立たせて、
一呼吸おいて。
再びちらりと沖田を見返した。


(・・・好きに、させてやる)



好きなだけ。
抱けばいい。

夜まで、そうして



夜になったら・・


「沖田、」
隊士への指示を終えると同時に土方は、沖田へと今度こそ向き直った。

「今夜、・・報告に来るように」
頭を下げて背を向け、隊士を連れて去ってゆく沖田を、見送りながら土方はそして廊下の柱に寄りかかった。

つい今まで抱かれていた土方のからだが
まだ目を閉じれば沖田の腕の中にいるままに、夜を求めて
残された熱に震えた。












    
   七、好きにさせてやる了