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桜は風に乗って

 

 

 『もう1年経ったんだなぁ・・・』

満開の桜を見上げてそう思う。

毎年誰かを見送って、今年は僕が見送られる番。

本当に1年が経つのって早い。

 

 『・・・泣きたいんなら俺の胸貸してやってもいいぞ、特別に』

 そんなしんみりした気分をぶち壊すように現れたのは

友人の米良(めら)だった。

その手には米良愛用の一眼レフ。

先程かすかに聞こえた電子音はやっぱりシャッター音だったのか。

 『米良、また撮ったのか?』

 その声に幾分呆れが混じっているのは、このやり取りが

これまで何度となく繰り返されていることだから。

今日は米良も卒業生なのだから、せめて今日ぐらいカメラはどこかに

おいて置けばいいのに。

そう言ったところで聞く相手ではないけれど。

 『桜舞い散る中、涙ぐむ卒業生・・・・て、キャッチ(フレーズ)

なかなかいいだろう?』

 『あいにくだが“涙ぐんで”ない』

 『そりゃ残念』

 おどけたように米良が笑う。

お前が来るまではちょっとはそんな心境だったかもしれないけどな、

とは僕の心の中でだけ。

 『今年も綺麗に咲いたよな』

 『そうだな』

 米良の言葉に頷きながら、僕も目の前の桜を見上げる。

 

 構内の至る所に咲く桜は数あるけれど、僕にはこの桜が

一番馴染みがある。

 ここは僕にとっては特別な場所だから。

 一方的な恋だったけれど、初めて人を好きになった。

そんな喜びと悲しみが混じった思い出の場所。

去年、あの人が去ってから。遠退いていた足を

ここへ向けるようになって半年。

毎日少しずつ、胸の奥で感じる痛みを吐き出して。

そして1年経った今、同じ様な思いを抱いてまたここにいる。

我ながら進歩ないとは思うけど、でもそれも今日で最後だから。

 “今までありがとうな”

そう心の中で桜に話し掛ける。

 と、その時。

 校舎の間をすり抜けてきた風が、突風となって僕達の方向に

吹き付けてくる。

 『・・うわっ!』

 『・・・っ!』

 その風は正面から桜の木に当たって、大きくその枝葉を揺らし、

吹き上げられた桜の花びらは、けれど急にその力を失って。

ゆっくりと辺りを薄桃色に染めながら舞い落ちてくる。

 はらはらと。

 まるでここからの卒業を祝ってくれるかのように。

 『・・・・綺麗・・・』

 そう考えるのはご都合主義かもしれないけれど。

僕は米良がいるのも忘れてしばらく桜に見入ってしまっていた。

ふと我に返ったのは米良の一言で。

 『よしっ!“桜と涙の卒業生”GETっ』

 『・・・・・・・・・え?』

 

 ナミダ・・・・涙っ!?

 

 慌てて頬に手をやると、自分でも思いもしなかったものが流れていて。

 『米良ぁっ、撮ったのかっ!』

 『もちろん。この俺がシャッターチャンスを逃すわけないでしょう』

 と、カメラに頬擦りせんばかりに嬉々とする。

 『毎回撮るなっていってるだろっ!ネガごと今すぐそれを渡せ!』

 『嫌だね。渡したらお前捨てるだろう』

 『当たり前だ。一片とも形が残らないように、確実に消してやる』

 『そう聞いちゃ、ますます渡せないね』

 米良はそういうと、長身をいかすようにカメラを高く掲げて見せる。

ならば実力行使!、と、米良の腹にタックルをして体を引き倒そうとしたら

2人して桜の木へとぶつかってしまった。

正しくは、米良の体が桜に、だけれど。

 『・・・っててっ。わ、桜がっ、米良どけっ!』

 『痛って〜』

 米良がクッションになったおかげでどこにも怪我のない僕は、

慌てて米良を押しのけ、桜の木に傷がないかを確かめる。

 『良かった。大丈夫だ』

 『・・・おいおい〜。こっちの心配もしろよ』

 『お前のは自業自得』

 米良が唸っているその隙に、狙いどおり米良のカメラを

取り上げた僕はネガを引き抜いて光に当ててやった。

 一回これやってみたかったんだよな。

何だか気分がスキッとした感じだ。

 『あ〜あ、せっかくいい写真が撮れたってのに・・・』

 黒くなった塊を見つめていると、その脇で服の汚れを

叩きながら米良が立ち上がる。

にんまりと頬を緩めつつカメラを返した僕はその時、

米良の服の辺りから何かが落ちるのに気が付いた。

 『米良、何か・・・』

 『おっと、これは俺の』

 『それ・・・って・・・・』

 桜と一緒に写る1人の男子生徒。

多分それは一年前のあの時の、桜の下に立ち尽くしていた

・・・・・・僕!?

 『何でお前が・・・』

 『桜を撮ってたら、偶然な』

 最悪だ。よりによってこいつに見られていたなんて。

僕は黙って米良へと手を差し出す。

 『何?焼き増しなら明日にでも・・・』

 『焼き増しじゃない。ネガごとその写真も渡せって言ってんの!』

 『嫌だね、これは俺が撮ったんだ。俺のだって言っただろ?』

 『お前が撮ったかもしれないけど、俺が写ってるんだから俺のなんだよ!』

 僕達はしばらく睨み合っていたけれど。僕はもちろん米良も

引く気がないのがわかるから、僕は途方にくれる。

 『何でこれが気に入らない?桜もお前もいい感じなんだがなぁ』

 そういわれても。過去のことだろうが自分が泣いている写真なんて

喜んで残しておくヤツはいないと思う。それに泣いている原因も

原因な、ある意味トラウマ写真だし。

 『まぁ・・・仕方ないか。好きに処分しろ』

 すると、驚いたことに米良はその写真を大人しく僕へと渡してくれた。

撮るなといっても撮る。人の言うことは全然聞かないヤツなのに。

 『・・・米良?』

 『嫌なんだろ?』

 『そうだけど、・・・いいのか?』

 『いらないなら・・・』

 『いるよ、いるっ!』

 僕は慌てて米良の手から写真を奪い取った。

しっかりと小さく折りたたんで、写真をポケットにしまいこむ僕を

見ながら米良は大きく伸びをして桜を振り、

 『見事な桜だよな』

そういいつつ、またシャッターを切る。

ファインダーをのぞくその目は真剣そのもので。

おちゃらけも程ほどにして、いつもこうしてればいいのに。

そしたら・・・。

 そしたら、何だって言うんだろう・・・?

 と、突然米良が振り返るから僕はどきりとする。

 『お前も入れよ。ついでに撮ってやろう』

 『ついでかよ』

 『はいはい。撮らせてくださいませ。お願いします』

 『いつも勝手に撮るくせに』

 『勝手に撮ったらフィルム抜かれたしな』

 『・・・・・・悪かったよ』

 何故、謝るのは僕なんだろう?

そう思いつつも、さっき写真も返してもらえたこともあって

言葉はするりと口に出る。

 でも、まぁいいか。最後くらい。大学も違う米良と会うことも

そうはないだろうから。

 『結構写真って金かかるからな。また稼がないと。・・・ほら、早く』

 米良の前に立とうとした僕は米良の言葉に立ち止まる。

 『はいはい・・・て、まさかとは思うけど』

 頭によぎる“稼ぐ”の言葉とこのタイミング。

別に自分の容姿に自信があるわけではないけれど、

自分の写真が知らないうちに人の手に渡ってるなんてこと

あったら気持ち悪い。

 『僕の写真売ったりは・・・』

 『俺を誰だと思ってんだよ』

 『・・・ちょっとばかり恋愛ごとにだらしのないカメラオタク?』

 『恋愛はともかくオタクとは失礼だな。しねぇし、売る気もねぇよ』

 間髪いれず、の答えに僕はほっとするけれどそれはそれで

また別の疑問が浮ぶ。

 『じゃぁなんで僕を撮るんだよ。それこそフィルムの無駄だろう?』

 『何か言ったか〜?いいからほら早く』

 どうやら少し離れたせいで僕の言葉は届かなかったらしい。

別に今更問いただすこともない、と、僕は諦めて桜の前に立った。

 『卒業の記念にするから綺麗に撮れよ』

 今度はちゃんと聞こえるように、少し声を張り上げて米良に笑いかける。

よく考えるとこれって初めてかもしれない。

いつも勝手に撮られていたから、今みたいに米良に撮ってもらうために

カメラの前に立つなんて。

そう考えると何だか急に背中がむずむずして、こっ恥ずかしいような

気がしてきた。

 と、突然カメラを構えていた米良が僕へと向かって歩いてくる。

 『あ、もう写真・・・』

 撮ったのか?

その言葉は途中で遮られる。

何故って・・・

 『・・・・・・・っ、な・・ん、なぁっ、な〜!!』

 『・・・“何するんだ”?』

 あまりのことに驚いた僕は、リアルな感触の残る唇を抑えて

こくこくと頷くことで肯定する。

 『何って・・・・“キス”?』

 『そんなことを聞いてるんじゃないっ!』

 僕は思いっきり叫んだ。

 『仕方ないだろ?原因はお前にあるんだから』

 『しっ、仕方ない?』

 勝手にしたくせに、何で俺のせいなんだよ。

 『お前が笑うから』

 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?』

 どういう意味だ?

僕が笑ったから、米良にキスされた、と?

そんなむちゃくちゃな!

 『普通、写真撮るときは笑うだろう!』

 『普通はな』

 『俺は普通じゃないのかよ』

 『そ。も〜凶悪』

 『凶悪って・・・』

 どういう意味なんだよ。

 『お前が撮りたいって言ったくせに』

今まで散々嫌がる僕を撮ってたくせに、僕が承知したらこの態度なのかよ。

 『ま〜な。とにかく、そういう訳だから、今後は十分注意するように』

 そう笑って米良はその場を後にする。

 『注意って・・・何に?米良に?それともカメラに??』

 さっぱり意味がわからない。

 ぽつん、と、一人残された僕は何をどうしたらいいのか。

 

 忘れようと思ったのに。

 忘れられると思ったのに。

 ずっと好きだった先輩よりも、いつのまにか存在の

 大きくなっていた米良を。

 

 『キスなんかされたら、友達でもいられなくなっちゃうじゃないか』

 さわわっ・・・

 こつん、と、桜の幹に額を寄せると、風に揺られた花びらが

ひらりひらりと落ちてくる。

 『桜と一緒に散る恋、か』

 1年前と同じ様に。

あの時は、先輩と、その恋人をただ見送るだけだったけれど。

 これでいいんだろうか。

このまま、何もしないまま。また次の春が来るのを待って・・・?

これで本当に最後かもしれないのに。

 

 僕は米良を振り返る。

見ている間にも米良はどんどん小さくなって。

 『米良っ!』

 叫んでも聞こえないのか、米良が振り返ることはない。

 

 立ち止まったままじゃ、ダメなんだ。

じっと待っているだけじゃ。

 

 ふっと、桜の花びらが偶然にも唇を掠めて。

僕ははたと思い出す。

 『キス・・・』

 されたんだよな?

 誰かと間違えた訳でもなく、単なる友達でしかない僕に。

 『馬鹿だよな』

 せっかく忘れようとしてたのに。

忘れようとした僕を引き止めたのは米良なんだから。

なら、せめて僕の気持ちを聞く責任くらいはあるよな?

 こじ付けかもしれないけれど、そう思ったらすることは

1つしかないと決心する。

 『こら、待て米良っ!』

 僕は慌てて米良の後を追いかける。

諦めるだけの自分にさよならして、1年前には出来なかったことを

するために。

弱虫の自分から卒業した僕を、桜は優しく見送ってくれていた。

 

The End.

 

〜★〜

3月 ⇒ 卒業 ⇒ 桜♪・・・という単純な思いつきで
書いてみましたが、いかがでしたか?

今回の主人公はちょっぴりおセンチモード。


この後、主人公は今度こそ片思いを脱して両想いになれるのか?
それとも米良は単なる遊び人??
と、いうところで終わってますが、“どっちなんだ!”と
はっきりさせたい方々は秘密部屋へ♪

秘密部屋への入り口はTOPページから。
わからない方はメールくださいね。
(まぁ、結果はばればれ??)(*^▽^*)

2006/3/05改稿

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